第68話 天空に生きる(1)

文字数 748文字

 天空の郷。この地で生きた幾多の
故人に想いを馳せている。

 剣山麓の地を天空「そら」と郷人や老人は呼んだ。
「耕して天に至る。あゝ貧なるかな……」と

 山岳傾斜地農業が、日本農業遺産に登録できたことは
そこに生きた方々への賞のようなもの。賞は生きた確かな証。
これからも守ることの大義さお察しします。

 何かをする時は近所で手間替え(助け合い)をする。
母ラクエは今日も手間替えをしながら、傾斜地の土を
大きな熊手に似た道具で下から持ち上げている。道具だけ
持つのもさぞ重かろうと思うに。

 天空の集落は1日4回食事をする。粗食のため腹持ちが
悪く、空腹を覚えたのだろう。私も幼少の頃は4回食事を
していた。10時に昼飯、3時にお茶付けといって摂っていた。

 これは小説でなく、実在した物語だと思うと全て納得
することができ、在りし日を思い出して胸がキュンとなる。

 木綿布で綯いあわせた火縄を腰に吊り下げる。独特な臭い
や、白い煙を蚊やブトは嫌がって寄ってこないのである。
 夏の日は長い。日が傾いても夕闇が迫るまで働き続ける。
過酷な労働に耐えたであろう姿が寒村に暮らした祖母と重なる。

 麦飯は上等で、芋を常食とし、家族ぐるみで夜なべをする。
藁を打って草履を作る。よく打てた藁は柔らかく手にもやさしい。
出来上がった草履は明日学校に履いてゆく。
 昭和一桁の田舎の子供は、靴などない。みんな自分の履くものは
自分で作っていたのだ。

 石臼で蕎麦や小麦を挽く。小麦粉で作った団子は馳走だった。

筆者(ヨッシャン)は昭和12年に1年生になったというから
多分、教科書は全てカタカナで
「サイタ、サイタ。サクラガ、サイタ」と学んだことだろう。
 
 囲炉裏で茹でた芋や味噌田楽の味を楽しんだ。
 天空にもそんな楽しみがあった。
 というくだりに心が和んだ。




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