第97話 令和の天満座

文字数 734文字

 町は焼け野原になり、家は空襲にこそ合わなかったが、
敗戦の後、寒村には何の娯楽もなかった。秋の取り入れの終わる頃、
どさ回りの芝居が来た。重箱に弁当を詰めて日の高いうちから、座布団
を持っていって席を確保しておいた。木戸銭はどうしたのか記憶にない。
大小様々な座はあっただろうけど、寒村に有名な座が来て興行したとは
思えない。記憶にあるのは「すわらじ劇団」ただ一つのみ。

 私は映画より、芝居の方が馴染みがあって好きだったのだ。
最近まで2月と6月に一ケ月間淡路島のホテルで興行があった。
ホテルから案内を貰って、好きな芝居を見にいったものだ。

 当地にも天満座が出来、こけら落としを2015年にしている。
故郷の友も芝居が好きで、よく一緒に観劇した。
「東京だよおっさん。国定忠治」など見ると70年の時空を超えて
戦後に戻っているから、摩訶不思議。私は、劇は見るけど、きんきらした
踊りや、歌は好まないので、いつも一人で席を立つ。

 知人に天満座の招待を受けていたが、体調も芳しくないまま、千秋楽
まで延ばしてしまった。50人で大入りが出るほど天満座は小さい。
令和になって初めての観劇である。
 嫁姑劇は時代を問わずうけるのであろう。
「ワッハッハ。アッハッハ」笑い声と満場の拍手。みんな郷に入っているのだ。
郷には入れない、笑えない自分がいる。ついてゆけないものがある。

 昔の娘さんは、次々とお捻りというか、祝儀というかを舞台の芸人の帯に
胸に挟んでいる。この風情は昭和も平成も令和も変わらない。
十人十色で何の技の世界にもファンはいるものだ。
酸欠する程の空気に圧倒された。踊りが始まったので、失礼を承知でそっと
中座してバス停へ急いだ。
 観客も「ワッハッハ」で、ストレスを発散しているだろう?

















とうきよう
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