第85話 紫紺の色が好きよ 

文字数 360文字

 紫紺の色がとても好き。
色白美人が、衣にすればさぞ似合うだろう。
対角線上にいる自分には手の届かない色であるが、花なら
だれ憚らず愛でることができる。
 いつかの趣味の会で話題になった犬ふぐり。あの小さい紫紺の
野の花が好き。
 故郷の田んぼの畦に地を這うようにひっそりと咲いていた
可憐な犬フグリ。
 花吹雪の哲学の道を一人歩いた三十年も昔。歩道の片隅に
ひっそりと肩寄せ合うように咲いていたイヌフグリに心通わせた
想いが甦る。

 私に言わせると今は、紫紺の季節である。杜若、アヤメに花菖蒲、
紫紺が五月の太陽によく映えている。
 やがて紫紺の紫陽花に露草も咲くだろう。畑の隅に露草が群れていたから
大きいのを二本残してあとは鉢で育てている。

「まあ露草を鉢に……」笑いながら通り過ぎて行った人のあり。
これこそ「十人十色」ほっといて、ちょうだい。


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