第9話 秋は実りだ祭りだ

文字数 429文字

 落暉を浴びた棚田の銀の波。
深々とこうべを垂れた稲穂。
田ごとに自慢の、己の色を放つ。
異なる輝きに、耕作の労を忘れる。
豊作だ。万作だ。

 女の子、らしからん女の子が。
この日ばかりは、お姫様。
長い袖を振り振りポンポン下駄。
祭りだ。豊作祭りだ。境内に出た露天。
寅さんまがいの、にいちゃんの声が
飛び交う。
 口いっぱい開けて綿菓子にかぶりつく。
おでんも、烏賊も、いかの足は新聞紙に
くるんで食べた。
「ドンドンヒャララ、ドンヒャララ」
わんぱく坊主が、白粉塗って神妙だ。
狭い村には
神輿と一台のだんじりがあるだけだ。
それでも村中、楽しんだ。
終日笛や太鼓が響き渡った。
 その祭りも大戦が始まり翌年には
縮小され、そのまま中止になった。
 戦前、戦後、戦中も農家の人は、
お米は供出米として強制的に取り上げられた。
残った屑米や小米を分け合って食べた。
「八紘一宇」の旗印は子供にも及んだ。
 校庭には芋を植え、増産の一助とした。
 「欲しがりません。勝つまでは」
  忘れることのできない言葉だ。


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