第62話 ふるさと(4)

文字数 613文字

 豊年祭りは幾度となく書いたから割愛したい。
やがて迎えた秋。棚田の稲穂は銀色の波を打ち、
赤とんぼの群れが豊作を告げて翔ぶ。

 学校では運動会のシーズンである。娯楽のなかった
その昔、運動会の最後の地方別リレーは総立ちで声援
を送った。花形のあの顔、この顔を思い出す。

 夜長は夜なべの季節でもある。柿を剥き吊す。
茹でぼし(干し芋)は家族の流れ作業だった。昼間
洗ってある芋を切る人、穴をあける人、芋に藁を通す人。
3本の藁にバランスよく通すのだ。
子供は専ら芋に藁を通していた。芋も、大小あり注意
しないと吊るした時、重い方に傾くのだ。
寒風を受けて干し芋は1か月で乾燥する。
干し芋は、夏場なま芋がなくなってから食するのだ。
そのまま齧るもよし、焼くもよし、従兄弟煮は最高。
農家の軒下は、どの家も芋の暖簾のようだった。

 猟友会で父は猪を追いに出かけた。成績があまり良くないので、
猪を撃ちに行くとはいわず追うと言っていた。それでも猪の肉は
よく食べた。すき焼きにするより食べ方は知らなかった。

 父の猟の時の出立ちはタンクズボン(腰が膨れて膝下が締まっている)
を履いて巻き脚絆を巻いていた。その巻き脚絆を片方ずつ弟と競争して巻いた。
堅く巻けたら、「これはよう巻けたのう」と褒めてくれた。
 天井が真っ黒になるほど囲炉裏火でお餅や芋をこんがりやいた。
 永遠に会うことのない父や兄に逢いたい。
 ふるさとの山は雪が降っているのだろう。煙り濃く、何も見えない。。





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