第99話 時の人

文字数 751文字

 元総理安倍晋三狙撃に端を発した旧統一教会の事案は政界をも
揺るがせている。29日、友人が英夫さん(H)が出ているからすぐ
1チャンネルをつけるように電話があった。
 しばらく会っていないが顔、形が父君に良く似てきた。
 父君は亡夫の幼少からの友で、蜜月があったり、疎遠になったり
二人は、男の戦いを繰り返していた。が、Hのマインドコントロールを
解こうとして、苦しんでいた頃、夫婦で家に来て朝まで飲んでいた
ことが度々あった。それを目の当たりにして「親は悲しい」
と思ったことだった。
「息子を助けて」と国会に手紙を出したことも、注射でHの自由を
奪ったことも、みな本当の事である。
 世の人は何と言うかは知らないが、Hは好青年だったし、近年も、
年老いた父母に孝行を尽くしていた。結婚は両親の意には添えなかったが、
奥方もよくできた人で、平和に、豊かに、幸せに暮らしていると見受け
している。何と言っても当地では名門の御曹司である。 
 父君の旅立ちが19日。新聞に旧統一教会の県内市町村議の
アンケートが出たのが21日。死亡広告が出たのが23日。自尊高い
父君の旅立ちの後でよかったと、他人事ながら胸を撫で下ろした。
父君とはコロナで2年お会いしていなかったが、聞くところによると、
認知が進んでいたらしい。何はともあれ、父君がいなければ、今の内の
会社は存在しなかったと思う。「恩送り」と言う言葉がある。
その通り私は、教会ではなくH本人の風除けに少しでもなれたらと思う。

 我が世の春を謳歌し、望月の欠けるを知らなかった父君も親である。
Hのことのみが心残りであったろう。

 生きとし生けるもの平等に皆、死ぬ。
 どうにか今年の猛暑は耐えた。
 季は移り、秋風が好青年から買った壺を撫でながら通り過ぎて行く。
 ひとり、巡る因果を噛み締めている。






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