第28話 第3の人生

文字数 656文字

 第3の人生に歩を進めて一昼夜が過ぎた。
大きな自然の流れは「九牛の一毛」ならぬ、命の一つや二つ、
生まれても、滅んでもどうって、ことはない。
自分にとっては重大なことでも悠久の自然から見ると、雨の一粒
にもならないことだ。
いつもの通り日は登り、日は落ちてゆく。
 
「これは嘘ほんと」どこをつねっても痛い。
娘に夢見てのではないだろうかと問う。
「しっかりしてよ。母さん現実よ」

 思い出している。
初めて親元を離れた時は、何もなかったが若さがあった。
何をして生活すればよいのかもわからない未知数だが、
一人暮らしができる。それだけでも夢が膨らんだ。

 あれから時は流れて、三回目の一人暮らしである。
若さと、背景と、事情と心の綾に合わせてその都度
それぞれ異なったドラマが生まれた。

 入所の時には(昨日のことだ)
「セカンドハウスにでもきたような気持ちで」と
言っていたのに、一夜明ければ「コロナの収束迄は辛抱」と宣う。
月2回の趣味の定例会も、月曜日の遊びの会も今月は欠席と決めた。
 
 施設は1○1歳の男性が一人と女性が29名。平均年齢は87歳。
小規模の施設だ。3人の顔と名前を把握した。必要以上に隣人と仲良く
しないよう注意を受けている。しばらくは静観の構えだ。

 食事の時以外は、皆さん部屋にいるのだろう。館内は水を打った
ように静かである。静寂は孤独に通じているように感じる。

 減量のため取り寄せていた○○宅配のお弁当よりこのハウスの食事
の方が美味しい。食事のおいしい事は今は何よりの幸せである。

 雨が降っている。大雨情報が流れた。9月8日


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