第105話 傘寿を超えて

文字数 1,103文字

 80にして惑わすと言うが惑いながら八十を超え90になった。
90歳めでたいと言うが、何がめでたいものですか。また人はお元気ですねと
言うけれど、元気ではない。歳をとると言うことは下り坂を降りるのではない。
段を降りるのである。一段ごとに老いてゆく。一段降りるのに一苦労して、
やっと平地にかかると何かにつまづいたり、風邪でもひこうものなら、二段を
転がるようにして降りる。その時どんと歳を重ねるのである。
登った山なら降りねばならないが幸い山に登る計画も予定もない。しかし、あの
河原までは行かねばならむ。
 十数年前甲状腺がんで甲状腺を全摘したのでホルモンや体温の調節が思うに
任せられない。従って薬は離せないし季節の変わり目になると微熱で毎年悩ま
されている。十一月にまた微熱が続いた。息子は例の熱だろうと言うが
「違う。違うんだ」と自分の体が訴えていた。が何だかわからない。
 かかりつけ医にも診てもらったが、原因もわからず処置なしであった。
 そのうち遂に、発熱外来で検査した。発熱外来はよく考えたもので被疑者
以外は立ち入れな生きたい。患者も複数入れない。完璧に孤立しているのに
感心した。「ちょっと痛いですよ」と鼻の奥の粘膜を取った。
陰性でしたと聞いた途端に、次の患者が走り込んできた。看護師はお話し
した通り、自動車で待ってくだょさい。と自動車へ戻し窓越しに問診していた。
コロナ禍の中医療にかかわる方々のご苦労を知り、頭が下がる思いだ。
コロナではない。10日ほどで微熱は解消した。今度は頭の左半分が痒い。
そのうち痛くなってきた。十二月に入ってすぐ、受診した「先生この痒い具合は
もしかして帯状疱疹」?「水泡がないから違うと思う」3日にまた受診したが
わからないまま、5日、息子に別の医院へ連れてゆかれて帯状疱疹とはっきりした。
あの微熱が予兆だったと知って無知とは恐ろしいつくづく知った。人間の体の神秘
というか、左目の異常に気がついた。左目は既に視力が○、○1になっている。
急いで眼科を受診。ウイルスは目にも及んでいた。「失明する方もあるんですよ」
医師の声に胸が痛んだ。
 皮膚科を再診、薬はよく効き1週間で新しい発症は無くなりずいぶん良くなった。
「手遅れするほど長引きますよ」先生の声が胸に刺さった。
痛みはないが、まだ痒い。
 これで大きくドカンと老いがまた加速した。
 年越しも恒例の新年の集いも私は遠慮してひとりで新年を迎えた。
 東の窓を開けると昇る初日を眺めることが出来た。良いお天気だった。
 自分のことは自分でするをモットウに命ある限り、前向きに生きたい。
 お年玉は出してないのに、貰らっちゃった。有り難ことだ。ホッホッホ。








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