第135話 令和の楢山節考

文字数 2,120文字

 世界一の長寿国日本。
焼野を世界大2の産業大国にした今の老人たち。しかし今、経済は地に落ちた。
この一本の皺がこの国の産業の基礎を作ったのだ。と老人の顔の皺を露わに
したパンフが消えて久しい。なるほど今の老人たちは働く以外に遊び方を
知らなかったのだ。一口に老人と言っても格差はある。一握りの雲の上の人
は仲間から、外そう。年金を頼りに、年金をありがたがって生きている同胞。
その年金にも格差はある。それは仕方のないことだと思う。あの時、
こうしていれば、あの時、ああしていれば、人生の岐路に立って迷路にはまったり、
道が開けたりするのは、それぞれの持って生まれた「定め」であるように思う。

 私には曽祖母と祖母が居た。曽祖母を古ばあさん「ハル」と呼びもう一人の祖母を
祖母さんと呼んでいた。
そして二人の祖母の臨終の「2年前」をつぶさに見ていた。
「ハル」の働いた姿を見たことはなかった。「ハル」は一山向こうの勝浦から後妻に来て
生まれた子供は早逝し、孤独な晩年だったと思うが、今で言う、痴呆症にかかり、自分が
何であるかさえ、わかっていなかった。が、姑根性はしっかり持っていて、祖母さんを
いじっていた。子供心に、「女」って嫌だなぁと思ったものだ。
 「ハル」は天理教の信者だった。信じるものを持っていたことに救われたように見えた。
が、新時代には、とてもついては行けず可愛想な老後だった。城にしていた西の離れを
父に追い出され、母屋で起伏していた。食事時には一緒に食べていたから健康だったのだろう。
鶏のササミや柔らかい肉は食べていたようだ。その内、粥を作って祖母が寝床へ運んでいたが
間もなく眠るように逝った。享年82歳だった。私の高校生の時だった。曽祖母には申し訳が
ない。別れは悲しいけど、家の中の風通りがよくなった気がしたのを覚えている。

 因縁の悪い家で三代も続いて先妻は早逝し後妻が長生きしている。祖母は、実祖母の早逝により
後妻として入り、母の他界によって孫の私たちの面倒を見る羽目になった。
私たち四人の兄弟は祖母の手で育てられた。あんなに働いた人を見たことがない。言葉にできないほどの「御恩」を感じている。祖母は実子は産まなかったと言うし、産めなかったと聞くし、新実はいずれか定かでないが、曽祖母と同じく寂しい老後であった。
 祖母は最後まで、東の離れで生きていた。食べ物は、兄嫁が毎食運んでいたようだ。排尿、排便がままならず、本人も介護する家族も大変だったことと思う。私は孝養もせずに嫁いだので、思うように見舞いにも行けなかった。のか?ゆかなかったのか。会う度、「死にたい」を聞かされるのは何より辛かった。
「家」を背負い「家」を守るため辛苦してきた過去をつぶさに知っているだけに祖母の老後には
胸が痛む。今はこういう老後を送る老人はいないだろう。令和の楢山節考があるから。

 いずれも同じく、年寄りはいらないのである。日本中がそう言っているとは言わないが、
 総じて長生きが過ぎたのである。家で面倒見きれないからとディケアへ通わす。ディで一日
何をしているか。家族のものは知っているのだろうか。一日中、塗り絵ばかり塗っている老婆、
なすこともなく、ボーッと一点を見つめている老婆、決められた机の4分の1角を我が域として
そこに腰掛けているだけである。あれは重労働に等しいと思う。帰宅後すぐ、床に入ると
いう老婆の話。痛いほどうなづける。
 デイケアの職員は、みんな優しく平等を志して職に励んでくれている。
通所者の中に自分のように、はしかい老婆がいると余計な気を使わすことがある。
「人生100歳時代」と大声で歌えない。100歳を支える若人のことも考えてみよう。

 二人の祖母を送った時代からすれば今の老人は恵まれている。恵まれていると何人、承知
しているだろうか?ディケアは姥捨山に等しいと書くつもりだったのに、別方向に着地して
しまった。
 誰も親は愛しい。さらに子は愛しい。その気持ちに亀裂が入らないうちに隠れたい。 
 願わくは、清々しい余韻を残して永遠の旅に立ちたい。
 加齢に比例して確実に日々衰えてゆく体力を意識しながら、
最後まで自分の足で歩きたい。子供たちに、迷惑をかけないように。
 一人で生きているように、粋がっているが、本当は知っている。
すでに助けられて生かされていることを。
 生きとし生けるもの誰もが必ずつく死という着地点。
しかし、本人は誰も真実を語れない。
だからこそ、人はその不安や恐怖と闘い、救いを求める。求める
方法はさまざまである。
しかし、誰も助けることはできない。自分があきらめて覚悟すること
に尽きると思う。
 命が尽きる時苦しむと思うから恐ろしいのである。
 恐怖がなく眠るように旅立つことができたら……。
 私は1993年に尊厳死協会に入っている。人生会議にも出席して、
残り少ない人生をいかに生きべきか。会議から少しづつ学んでいる。


 私は令和の姥捨山にひとりで登っている。振り向かないぞ。アッ。仲間が屯している。
 ここはどこ?見たことのない風景である。一番前に長兄が手を広げて待っている。
 うとうとした瞬間。今、見た夢である。ドキドキしながらこの項の末尾に加筆した。
































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