第88話 忘れた頃に

文字数 1,530文字

 ほとんど着信のないSMSのCメールが届いた。
着信音は小さいのですぐ気がつくことは少ない。3時間も経過していた。
佐川急便からの伝言が入っていた。
「荷物をお預かりしていますが住所がはっきりしないので、下記まで連絡ください」
とあり、○570から12桁の数字が並んでいた。明日は敬老の日でもあるし、娘が
何か送ってきたのだろうと、電話を入れると即座に
「それはおかしい詐欺だ」と言い、娘が佐川急便に問い合わせた所
「当社はCメールなど一切していない。このところ、そのような問い合わせが増えて
いるから、くれぐれもご注意ください」とのことであったと言う。
「母さんそれやっぱり詐欺だったね。これからもあるだろうから気をつけてね」

 聞くところによると、無差別に何千通か、何万通メールして、何処からだろうと、
問い合わせの電話でもしたら、念のためとか確認のためとか言って個人情報を引き
出すそうだ。それがオレオレ詐欺の導火線になるなんて、急には信じ難かった。が、
詐欺を証明するように、その後、何処からも何も送ってこなかった。恐ろしい世の
中になったものだ。私は一つ賢くなった。もう二度と詐欺には掛からないぞと自分に
言い聞かせて、忘れるともなく、思い出すこともなく8カ月が平穏に過ぎた。

 日本中がコロナに脅かされながらも、大型連休で久しぶりに浮かれていた。
そんなある日。
「お荷物が届いていますが住所が不明でお預かりしています。確認してください」
差出人070-6567-8067。Cメールが届いた。運送屋さんと思い、すぐ
電話した。「ただいま電話に出ることができません。ご用件を入れてください」
留守電であった。
「荷物が来ているようだけど、誰からなのかこの携帯に返事ください」
と返事しておいて、娘にすぐ電話した。
「母の日のプレゼント何か送ってきたの」
「あれも、これもいらないと言うから何も送ってないよ。どうしたの」
「住所がわからないとCメールが入ってきたから、断ってあるのに何を
送ってきたのかなぁと思って、この電話を入れたの」
「母さん前にもあったでしょう。そのメール詐欺よ」
「あァッ、そうだったな。私も老いたものよ。全然気がつかなかったわ」
「電話があっても無視するのよ。その番号警察へ知らせておいたら」
無視するといっても、既に携帯番号は知られているし、落ち着かなくなった。

 弟が来て、詐欺電話の話をしているところへ詐欺師から電話がかかってきた。
「どれどれわしが出るわ」弟が電話を取った。
「モシモシ何処からの荷物だ言ってみぃ。(返事がない)いい加減にしろよ。今警察に
届けを出したところだ」言うなり電話はプツンと切れたらしい。

「おばあさんの独り暮らしだから気をつけなよ。また来るわ」弟が帰った後塞ぎ込んでしまった。
 
 息子云く。
「そんなの詐欺に決まっとるだろう。前にも話しただろう。子供や孫の名前でも言ったものなら
もう向こうのペースにハマったも同然『ばあちゃんオレ事故を起こした。上乗せ保険が切れたままになっていて、示談金をすぐ払えば事故扱いにせずに許してくれそうなの』と言ってくる」
「そら大変でー。でも弘ちゃん声が変よ」
「風邪で喉やられていたけどもうオレは大丈夫。ばあちゃん助けて」となると息子は言う。

 「ところで弘ちゃんはいくつになった」生まれた月日まで聞く。それであっていれば
信じるしかないだろう。一緒に父母の住所、氏名、兄弟のことも逆質問するか?

 こうなって、うっかり婆さんは詐欺にかかるのだそうだ。私は二度もかかりそうになった。
「自分は詐欺になどかからない」変な自信過剰がサギの狙い目なのかも知れない。私はもう
ブラックリストにのっていると心しよう。
 災害と同じ、詐欺も忘れた頃にやってくる。




















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