第79話

文字数 1,158文字

目を覚ますと、赤い空間にいた。光量が足りないので、薄暗い。

「どこ?」

起きあがろうとしても、思うように力が入らず、背中を浮かせただけで諦めた。頭も重くてぼうっとしている。

天井を見ると、赤い光を放つ蛍光灯が目に入った。目を凝らすと、ガラス管に赤いビニールテープが隙間なく巻き付けられていているのが見えた。

「地震」

思い出した瞬間、考えるよりも先に声が出ていた。

そうだ、地震で事故の流れだ。ということは、あたしがいるのは病院?

しかし、畳の部屋に煎餅(せんべい)布団(ぶとん)、それにこの蛍光灯。病院だとは思えなかった。

もしかすると、近くにいた人に助けられて、その人の家に運び込まれたのだろうか。

あたしは身体を起こした。こんどは起きあがることができた。すぐに下半身に目をやった。さっきから違和感があったのだ。

何も着けていなかった。あたしはさっと脚を閉じた。これをきっかけに、意識もはっきりとし始めた。しかし、状況は掴めない。

八畳くらいの部屋だった。あたしの前方右手には卓袱台(ちゃぶだい)があり、そのうえにポット、急須、湯呑茶碗の載ったお盆があった。

前方左横は襖戸(ふすまど)になっていた。

後方の隅には何もなかった。中央上部にはエアコンが設置されている。

布団の端に、布が拳くらいに盛りあがっていた。手に取ると、あたしの下着だった。あたしはそれを穿()いた。

股間がベトっとしているのが気になっていた。あたしは手を当てて、それを鼻に近付けてみた。もちろん、それで何か分かるわけではなかった。ただ、精液のような気がしないではなかった。

もしかすると、あたしは何かされたのではないか。濁った頭のなかで思った。

シャツのなかでブラジャーだってずれている。乳首も強く吸われたときのように痛みが走っている。

あたしは立ちあがった。足がふらついた。けれども、どうにか身体を支えた。

あたしは歩けるだけの平衡感覚が()きているのを確かめて、襖戸の前に進んだ。

引手に手をかけたが、それは開かなかった。ガタガタと動くのだけど、何かに引っかかっているようで、横へは滑らない。

どこかで話し声がしたような気がした。あたしは戸をノックした。そうして、耳を澄ました。何の応答もない。

話し声は空耳だろうか。あたしはもう一度耳を澄ました。

しばらくして、また声が聞こえた。何を言っているのか分からないけれども、会話しているのは知れた。こちらには気付いていないようだ。あたしはドンドンと叩いた。

「誰かいませんかぁ」

あたしは更に叩いた。叩く合間に外の様子を探った。相変わらず、話し声は聞こえる。

どうやらここは二階(()しくはそれ以上)のようだ。話し声は階下から届いてくる。

あたしは「誰かぁ」と叫んだ。すると、下で戸の開閉する音が響き、階段をあがってくる足音がした。その足音はあたしの前でとまった。カチャッと音がし、襖戸が左に開いた。
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