第103話

文字数 1,012文字

男が顔をあげると、その表情には興奮と満足が滲み出ており、まるで別世界を見てきたかのようだった。頬はかすかに震え、目は血走りながらも輝いていた。

男の下着はビキニパンツだった。桜の木の根がアスファルトを打ち破って盛りあがるように、ペニスの一部が布から出ていた。

二人ともほとんど同時に裸になって、狭いシャワー室に入った。寒くてしかたない。早く終わって欲しいと思いながら、あたしは男に言われた通り、ペニスを洗い、背中を流した。あたしの身体は自由に触られた。

石鹸を流して出ようとすると、さりげなく後から抱き締められ、お尻にペニスを擦り付けられた。水で濡れているので、つるつると滑った。

そのうちにペニスの先端が肛門を突こうとしてそのまま前に滑り、入るべきところに入ってきた。

何も感じなかった。

こんなふうにシャワーなどを浴びていると、風邪は悪化するんだろうな、と半ば諦め気味に考えていた。

男が満足すると、また洗わされた。

「じゃ、部屋に戻ろう」

身体を拭いて脱衣所を出ると、ヘグ婆の姿はなかった。

部屋に入ると、バスタオルを身体に巻いたまま、あたしは布団のうえに横になった。部屋はエアコンのおかげでそこそこ暖かいはずだけど、とにかく寒く感じられた。

男は話しかけてきた。けれども、応じる気力はなかった。

「しんどいの?」

初めはこんなことを言っていた男だったが、あたしの無反応に最後は怒り始めた。

「無視すんな」

男はあたしの肩を引いて、横向きに寝ていたあたしを仰向けにした。それでもあたしが目を閉じていると、こんどは、言葉を吐き捨てた。

「それが客に対する態度か」

誰が客なのだろう。あたしは商売など始めた覚えはない。男に対する反論が心に浮かんだけれども、それらを表に出すことはなかった。

「何とか言えよ」

男は迫った。

「知らない」

あたしは答えた。意図せず小声になっていた。

「知らないって何だよ。自分のしていることが分からないのか」

「あたしが好きでここにいると思ってるの?」

男は一瞬躊躇した。しかし、すぐに、

「好きだろうが嫌いだろうが、これが仕事だろ。仕事なんだから、やるべきことをやれ」

「あたしが閉じ込められているの知ってるくせに」

「そんなもん知るかよ。受けたのはここのマスターなんだから、文句があるならマスターに言え。何ならいますぐ呼ぶか」

折檻の怖さが脳裏をかすめた。あたしは顔をそむけた。どうして好き勝手に言われなければならないかと思うと、涙がこぼれた。

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