第102話

文字数 1,133文字

男はあたしの下唇を吸い、舌をなかに入れてきた。アルコールの臭いが一気に広がった。あたしは吐き気を必死に(こら)えた。

男はそのままあたしの太ももを触り始めた。

「しっとりとして、つるつる」

男はこう言って、長い身体を折り畳み、太ももに頬ずりをした。

気持ち悪いはずだけれども、あたしの頭には「しんどい」という思いが先に立った。

男は、正座して閉じているあたしの股間に鼻を埋め、すうっと息を吸い込んだ。太ももに空気の流れるが冷たく感じられた。

「シャワー浴びようよ」

男は顔をあげた。

「熱が……」

声に張りがないのが、自分でも分かった。

「そんなの関係ないよ。こっちは金払ってんだから」

男の声は大きくなった。あたしは返事する気にもなれなかった。

男はインターフォンを押した。呼び出し音のあと、ヘグ婆の声で応答があった。

「どうかしました?」

「シャワー使いたいんですけど、いいですか」

「はい、ちょっと」

通話が切ると、男はこちらを見て、

「さっと浴びたら大丈夫だから。風邪引いてても、風呂は別に構わないんだよね」

あたしは何も言わなかったので、ただ沈黙が流れた。

ヘグ婆が襖戸を開けた。

「こっちですよ」

ヘグ婆は男を案内しようとした。

「この娘も一緒に」

ヘグ婆はあたしを見て、言った。

「早くしな」

言い方はきつかった。あたしが風邪だ熱だと(あらが)っているのを見越しているようだった。それでもあたしは「あの」と言った。

「あとで薬やるから、さっさとしな。そんなもん、どうってことないよ」

抵抗しても結果が変わるわけでもないだろうから、あたしは立ちあがった。ヘグ婆は、あたしたちが短い廊下を歩いて脱衣所に入るまで、監視するような目で見ていた。

脱衣所は寒く感じられた。

「鳥肌」

黄色い光のもと、男はあたしの二の腕をさすった。ぞっとして、余計に毛穴は盛りあがった。

男は服を脱ぎ始めた。男が下着一枚になっても、あたしは何も脱げずにいた。頭全体が痛かった。特に耳の後ろから首の付け根にかけてが痛かった。

あたしの目は潤んだ。何でこんなことをしなければいけないのかと思っていると、男はあたしのシャツを引っ張った。

「早くしないと寒いよ」

続けて、こんなことも言った。

「病気で苦しいところ、わがまま言ってごめんね」

少しの痛みも伴わない「ごめんね」など、何も響かなかった。この期に及んで善人でありたいのかと、軽蔑の念すら湧いた。しかしそういった感情も、頭痛や悪寒を前にして、すぐに消え去った。

「早く終わって欲しい」

あたしはこう思いながら、シャツを脱いだ。乳房は揺れた。突然男はあたしの両腕を掴んで、自分の正面に向けた。あたしが瞼を開けたときには、男の頭は下にあった。

男は乳首をねっとりと吸い、舐めた。乳首は固くなった。不快なこと、このうえなかった。

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