第61話

文字数 766文字

「これ以上はいやだ」

あたしは四回目を前に、強く言った。ユウヤは取り合おうとはせず、また同じようなことを言った。

成敗(せいばい)しているだけ」

しかし、あたしは梃子(てこ)でも動かないつもりでいた。すると、ユウヤの言動が熱を帯びてきた。あたしは部屋を出ていく覚悟で拒否し続けた。

押し問答のようなやり取りをしていると、一人の男が訪ねてきた。

ユウヤはキッチンの窓を開け男を確認すると、 慌てて玄関の扉を開けた。男は玄関に片足を入れた。

太った男で、紫色の縦縞の入った黒のスーツに身を包んでいた。 夜なのに真っ黒なサングラスをかけていて、目もとの表情は分からなかった。唇の端に裂けたような(あと)、頬に傷があった。会社員という風体(ふうてい)ではなかった。

男は何も言わなかった。

それにもかかわらず、ユウヤは大急ぎで財布から壱万円札を数枚引き抜き、男に渡した。

男は壱万円札の数を確認すると、ユウヤの肩を軽く突き、

「手間かけさせんなよ」

「はい、すいません」

ユウヤはペコペコと頭を下げた。

男はお金をポーチに入れながら、少しのあいだ静止した。あたしに気付いたのかもしれない。顔がこちらを向いている。

「ふん」

男は鼻を鳴らした。それから、ユウヤに顔を向け、

「じゃ、また来月な」

「はい、すいません」

男は扉を閉めた。キッチンの窓に、帰っていく男の影が映った。

「誰?」

あたしは訊いた。

「誰でもない」

ユウヤはこちらを見なかった。その声は(いら)ついていた。

「でも……」

「誰でもないって」

ユウヤは煙草に火をつけた。煙草は喉に悪いから吸わない、と言っていたけれども、結局は吸っていた。

ユウヤは紫煙(しえん)を一吹きすると、すぐに煙草を揉み消し、あたしに向かってきた。

え? と、驚くうちに、あたしの下着は剥ぎとられた。

ユウヤはすぐに入ってきた。奥まで一気に突き立てたかと思うと、何かを追い払うかのように荒っぽく突き続けた。
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