第11話

文字数 805文字

あたしはシャツの胸元を押さえた。胸元の大きく開いた服を着ていたわけではない。そうしないと、何となく不安だったのだ。

「ねえ、彼女さん遅いですね」

あたしは、今夜は遅いので、また別の機会に、と言いたかった。

ユウヤは返事を濁した。

「あたし、そろそろ帰らないと。もし必要だったら、明日にでも……」

ユウヤはまるで聞こえないかのように、違う話を始めた。

「怜佳は色が白いな」

ユウヤは腕を近づけて、あたしの腕と比べた。

「え、そんなことないよ」

あたしは自分の話を押し通さずに、ユウヤの話に合わせた。「そんな話をしてるんじゃない」とは言えなかった。先に説明したように、性格のうえで、あたしにその強さはなかった。

「そんなことあるよ」

ユウヤは言った。確かに、あたしのほうが白い。

「ほら、どう見たって」

ユウヤはあたしの肌に触った。あたしは反射的に引っ込めそうになる腕をそのままにした。びっくりしたように腕を隠して、警戒心を剥き出しにする乙女のように振る舞いたくはなかった。

このとき、あたしは性的に男性を知らなかったけれども、勃起したペニスを見たことはあった。精液に触れたこともあった。多少は知っているんだぞ、という見栄もあったのだ。

しかし、限界はある。ユウヤはあたしの腕をさすり続け、その手は二の腕へとあがってきた。あたしは腕を引いた。

「何か、勘違いしてない?」

「え?」

「別に変なこと考えてないよ。ただ比べてるだけだよ」

あたしは警戒心を見透かされた気がして、少し戸惑った。
 
力の抜けたあたしをユウヤは無遠慮に触る。

「肌のきめが細かいね。すごく女らしい。俺の肌、見てよ。ざらざら」

ユウヤの触り方は図々しさを増した。あたしの腕を左手で押さえ、右手で触る。軽く爪を立て、二の腕から肩のほうまで。あたしの腕には鳥肌が立った。

あたしは腕を引こうとした。でも、引けない。あたしは立ちあがって、全身の力で腕を引いた。すると、ユウヤも立ちあがった。
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