第122話

文字数 1,218文字

「いくらくらいですか」

「十万」

「十万は……いまはないっすね。でも、明日なら」

「じゃ、明日プラス三万持ってこい」

「プラス三万?」

「紹介料だ。俺への」

「分かりました。てか、紹介料って、ホントに中学生がいるんすか」

「ああ」

「ええ? それって、バイトか何かしてるんすか」

元川は答えず、きつい口調で言った。

「いいか、一つ言っておく。余計なことは訊くな。詮索もするな。ビジネスだ。この世界のビジネスを邪魔するよなことをしたら、あの世行くことになるぞ」

「……分かりました」

「黙って金払って、黙ってやっとけ。やりたいんだろ」

同時に、元川はこんなことも言ったそうだ。

「俺はお前とビジネスしようと考えてるんだ。家出してる少女(ガキ)を集めて、男に買わせる。売り飛ばす。(けつ)持ちにしっかり握らせとけば、横槍も入んない」

「マジっすか……。てか、誘拐として、警察が出てきませんかね」

「狙うのはしょっちゅう家出してるような奴だよ。警察も『またか』くらいにしか思わないような奴」

「はあ」

「明日、少女(おんな)を見たら分かるよ」

こうして、創希は可能性に賭けて、来てくれた。

「もし、ここにいるのがあたしじゃなかったら?」

あたしは創希の胸のなかで訊いた。

「それはそのときさ。でも、実際にはこうやって会えた」

あたしは黙って頷いた。創希はあたしの両肩を掴んで少し引き離した。そして、あたしの目を見て、

「僕はここを出たら、そのまま警察に行く。一緒に出られないのは残念だけど、あと少しの辛抱だ」

「……うん」

あたしはまた涙をこぼした。

「うん、うん。妹さんにも早く会いに行かないと。元気な顔を……。あ、いや、とにかく急ごう。行くよ」

創希は立ちあがった。あたしはそのまま創希を送り出そうとしていた。けれども、何かが引っかかり「待ってる」という言葉や、感謝の気持ちを表しかねていた。

ゆきちゃんに会いに行く? ゆきちゃんも待っている、ではなく?

「ちょっと待って。ゆきちゃんは家にいないの?」

あたしは創希の背中に声をかけた。

「『会いに行く』って、別のどこかにいるみたい」

あたしは言葉を重ねた。

振り返った創希はあたしを見て、何かを言いかけた。しかし、唇は言葉を発することなく静止した。

あたしたちは、しばらく見合っていた。階下から漏れ出す騒音が、小さな塊となって、二人のあいだを横切った。

やがて創希は重たそうに口を開いた。落ち着いて聞いてほしい、と前置きをした。

「妹さん、入院してる」

「入院って、どうして」

これで助かると思い緩んでいた神経のうえを、驚きが真逆に走り、頭が痛くなるようだった。

「交通事故」

創希によると、歩道を歩いていたゆきちゃんが、走ってくる車に向かって、ふらふらっと近付いたらしい。故意に車道に出たのか、無意識のうちになのか、はっきりしないそうだ。

しかし、ドライバーは同級生の親の知り合いらしく、その同級生によると、車の側に過失は認められないということになりつつあるらしかった。目撃者も複数いたのだ。

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