第123話
文字数 1,326文字
「あたしのお母さんはどうしてるの」
あたしの声は涙声になっていた。
「僕には分からない。会えないし、会いに行っていいのかも分からないし……」
死のうとしたのか。それとも、周囲に気を配れないほど放心していたのか。いずれにしても、原因は一つではないか。
「妹さん、相沢のこと、探してたのかな」
創希は呟いた。しかしすぐに、ごめんと言った。
「君に責任があるかのように聞こえるね。すまない。悪いのはあいつらだ」
あたしは泣きながら首を振った。違う。そうじゃないはずだ。創希は、ゆきちゃんがあたしを探している最中、疲れから不注意で事故に遭ったと考えているのだろう。たぶん、それは違う。原因はユウヤだ。
「違う……」
あたしは呟いた。
「違うって、何が」
「もういい」
「ごめん。もう言わない」
あたしの「もういい」は、創希が警察に行かなくてもいいという意味だった。創希が警察に行けば、あたしは助かるに違いない。しかし同時にユウヤも捕まる。それは駄目だ。ユウヤはあたしのものだ。
「そうじゃないの。新開君、警察には行かないで。あたしがここにいることも、誰にも言わないで」
あたしは普通に喋っていた。喋りながらも、あたしの涙は止まらない。理性と感情とが、あたしのなかで平行して存在しているような、いま思い出すと不思議な感覚だった。
「どうしたの、急に」
「お願い。本当に我がまま言って悪いんだけど、もう一度来て。そして、そのとき、煙草を持ってきて」
「煙草なら、いま持ってるよ」
創希は煙草とライターを出した。はったりを利かせるための道具として持っていたようだ。吹かすことはあっても、吸い込むことはないらしい。
「貸して」
「煙草吸うの?」
言いながら、創希は煙草とライターを手渡してくれた。あたしは何も言わなかった。
「そう言えば、下にいるおばちゃんに『女に何も渡すな』って言われたな。煙草も含めて」
創希は独り言のように、ぽつりと言った。
その横で、あたしは決意を固めていた。やるべきことは一つだ。
「新開君、約束して。絶対に警察に行かないって」
「けど……」
「あたしは大丈夫だから。行ったら一生恨む」
あたしの強い口調に圧 されたのか、創希は渋々承諾した。けれども、創希のことだから、また来るだろう。あたしは創希を巻き込みたくなかったので、その前に決着をつけるつもりだった。
創希はあたしに煙草を渡しただけ。何も悪くない。このことを確認したうえで、あたしは創希を送り出した。そのとき、あたしは念を押した。
「あたしのために、お金の無駄遣いをしないで。あたしはホントに大丈夫だから」
創希はもう高校生になっていた。あたしのために大切な時間を遣 ったのだから、勉強に差し支えたはずだ。
「もともと英数は勉強しなくてもいいから」
あたしに精神的な負担をかけまいと、本当のことを言っていない可能性は充分にあった。ただ、第一志望のトップ校に入ってはいた。
「さすがにいまは厳しい。落ちこぼれかけている」
創希はこう言って、笑ってくれた。
あたしも中学生ではなくなっていた。
大切な時間を失ったはずなのに、あまり寂しい気がしなかった。
「物みたいなものか」
通わずとも、自動的に押し出される現実を、あたしは遠い国のできごとのように、心の目で眺めていた。
あたしの声は涙声になっていた。
「僕には分からない。会えないし、会いに行っていいのかも分からないし……」
死のうとしたのか。それとも、周囲に気を配れないほど放心していたのか。いずれにしても、原因は一つではないか。
「妹さん、相沢のこと、探してたのかな」
創希は呟いた。しかしすぐに、ごめんと言った。
「君に責任があるかのように聞こえるね。すまない。悪いのはあいつらだ」
あたしは泣きながら首を振った。違う。そうじゃないはずだ。創希は、ゆきちゃんがあたしを探している最中、疲れから不注意で事故に遭ったと考えているのだろう。たぶん、それは違う。原因はユウヤだ。
「違う……」
あたしは呟いた。
「違うって、何が」
「もういい」
「ごめん。もう言わない」
あたしの「もういい」は、創希が警察に行かなくてもいいという意味だった。創希が警察に行けば、あたしは助かるに違いない。しかし同時にユウヤも捕まる。それは駄目だ。ユウヤはあたしのものだ。
「そうじゃないの。新開君、警察には行かないで。あたしがここにいることも、誰にも言わないで」
あたしは普通に喋っていた。喋りながらも、あたしの涙は止まらない。理性と感情とが、あたしのなかで平行して存在しているような、いま思い出すと不思議な感覚だった。
「どうしたの、急に」
「お願い。本当に我がまま言って悪いんだけど、もう一度来て。そして、そのとき、煙草を持ってきて」
「煙草なら、いま持ってるよ」
創希は煙草とライターを出した。はったりを利かせるための道具として持っていたようだ。吹かすことはあっても、吸い込むことはないらしい。
「貸して」
「煙草吸うの?」
言いながら、創希は煙草とライターを手渡してくれた。あたしは何も言わなかった。
「そう言えば、下にいるおばちゃんに『女に何も渡すな』って言われたな。煙草も含めて」
創希は独り言のように、ぽつりと言った。
その横で、あたしは決意を固めていた。やるべきことは一つだ。
「新開君、約束して。絶対に警察に行かないって」
「けど……」
「あたしは大丈夫だから。行ったら一生恨む」
あたしの強い口調に
創希はあたしに煙草を渡しただけ。何も悪くない。このことを確認したうえで、あたしは創希を送り出した。そのとき、あたしは念を押した。
「あたしのために、お金の無駄遣いをしないで。あたしはホントに大丈夫だから」
創希はもう高校生になっていた。あたしのために大切な時間を
「もともと英数は勉強しなくてもいいから」
あたしに精神的な負担をかけまいと、本当のことを言っていない可能性は充分にあった。ただ、第一志望のトップ校に入ってはいた。
「さすがにいまは厳しい。落ちこぼれかけている」
創希はこう言って、笑ってくれた。
あたしも中学生ではなくなっていた。
大切な時間を失ったはずなのに、あまり寂しい気がしなかった。
「物みたいなものか」
通わずとも、自動的に押し出される現実を、あたしは遠い国のできごとのように、心の目で眺めていた。