第116話

文字数 674文字

「ほーほー」

誰も応えない。

「ほーほー」

生理もなくなった。肌もパサパサした感じがする。

「ほーほー」

足音が近付いてくる。二人だ。

「こっちだよ」

部屋の外でヘグ婆の声がした。新しい男を連れてきたようだ。初めての客には、いつもそう言っている。

あたしはすっと起きて、壁に向かって正座した。すぐに襖戸が開き、ヘグ婆が顔だけを見せた。その前を横切って、金髪で長身の男が入ってきた。

あたしはすぐに目をそらせたので、その顔を確認することはできなかったが、若い男であることは知れた。

「終わったら、そこのインターホン鳴らしてくれるかい」

男は何も答えなかった。(うなず)いただけなのかもしれなかった。

ヘグ婆が襖戸を閉めたあと、男は入ってきたところでじっと立っていた。あたしはその姿を目の端で(とら)えつつ、男の出方を窺った。

「第一声は何だろう」

小鳥? うさぎ? ハニー?

男はため息を吐いた。この日、下の店は静かだったので、男のため息は思いのほか響いた。

ため息の消えた、しんとした部屋のなかで、あたしは男の視線を感じていた。恐らく舐めるようにあたしの横顔、胸の膨らみ、太ももを見ているのではないだろうか。

長い沈黙のあと、ようやく男は口を開いた。

「やっと見つけたよ」

そうですか。見つけましたか。それで、いつから探してたの? 馬鹿らしい。

「相沢……」

そう、あたしは相……、相沢? あたしは驚いて男を見た。

金髪の(かも)し出す雰囲気が、あたしの視線を(さえぎ)っていた。しかし、その視線がバリアを破って相手の顔に届いたとき、思わず声が漏れた。

「何で……」

「探したよ」

男はぎこちない笑顔を見せた。新開創希だった。

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