第89話
文字数 1,079文字
男は体を起こし、あたしの身に着けているものをすべて取った。
「うはは」
男は高揚した声をあげ、飛び付くようにしてあたしの股間に顔を埋めた。それからしばらくのあいだ、犬が水を飲むように陰部を舐めあげた。毛が口に入るらしく、ときどき指で自らの舌を擦り、摘 まんでいた。
男の舌はあたしの臍 、乳房、首筋へと移ってきた。
「どうだ、これ」
男は耳元でささやくと、いつのまにか取り出していたペニスにあたしの手を導いた。
「握れよ」
男は言った。あたしは無視した。
「このつるつるのほっぺた噛みちぎるぞ」
男はあたしの頬をぺろりと舐め、大きく口を開けて頬の肉を吸い込もうとした。
本当に噛みちぎることはないだろう。けれども、歯形が残るほどに噛むことくらいはしそうだった。あたしはしかたなく、男のペニスを握った。小さいペニスではなかった。
「動かして」
あたしは言われた通りにした。すぐに男の身体に緊張の走るのが分かった。
あたしは続けた。掌が亀頭に触れるたびに、男の身体は痙攣するかのようにピクッと動いた。あたしは早く射精させてしまうべく、掌を亀頭に集中させた。
しかし、途中で男はあたしの手を外した。そうして、あたしの左脚を蛙の脚のように折りたたみ、その折りたたんだ脚をあたしの胸に押し付けた。あたしの骨盤は浮き、膣がうえを向いた。次の瞬間、ペニスがまっすぐに入ってきた。
こんなとき、何も考えまいと念じても、心を無にすることはできないので、別のことを考え、心を一杯にする。あたしがこのとき思い浮かべたのは、どういうわけか、ビルの工事現場。
掘削され、山留 壁で枠が固定される。杭が打たれ、鉄筋が配筋され、網の目のようになる。コンクリートが流し込まれ、建物がうえへ延びていく。鉄筋がクレーンで吊りあげられ、階が積みあがっていく。カシャーン、カシャーン、キーン、キーン。建物が完成する前に、男の行為は終わった。
射精した男は、重そうな身体を肘で支えて、あたしの横にごろりと転がった。ふうっと息を吐いて、汗だくの胸にあたしを抱き寄せた。息ははあはあと荒い。男の肌の一部は既に冷たかった。
男は息が落ち着くと、訊いた。
「名前は」
あたしは答えたくなかった。
「名前」
男はもう一度言った。
訊きたいのだろう。無視を続ければ、男は脅してでも答えさせようとするはずだ。結局あたしは屈することになる。そういう屈辱は避けたかった。
「翔子」
正直に名乗ったりはしない。
「しょうこ。どんな字を書くの」
「羊みたいなのに、羽」
「へー、可愛い名前だね」
性欲が満たされて興奮が冷めたせいか、こちらが違和感を覚えるくらい、男の口調は穏やかだった。
「うはは」
男は高揚した声をあげ、飛び付くようにしてあたしの股間に顔を埋めた。それからしばらくのあいだ、犬が水を飲むように陰部を舐めあげた。毛が口に入るらしく、ときどき指で自らの舌を擦り、
男の舌はあたしの
「どうだ、これ」
男は耳元でささやくと、いつのまにか取り出していたペニスにあたしの手を導いた。
「握れよ」
男は言った。あたしは無視した。
「このつるつるのほっぺた噛みちぎるぞ」
男はあたしの頬をぺろりと舐め、大きく口を開けて頬の肉を吸い込もうとした。
本当に噛みちぎることはないだろう。けれども、歯形が残るほどに噛むことくらいはしそうだった。あたしはしかたなく、男のペニスを握った。小さいペニスではなかった。
「動かして」
あたしは言われた通りにした。すぐに男の身体に緊張の走るのが分かった。
あたしは続けた。掌が亀頭に触れるたびに、男の身体は痙攣するかのようにピクッと動いた。あたしは早く射精させてしまうべく、掌を亀頭に集中させた。
しかし、途中で男はあたしの手を外した。そうして、あたしの左脚を蛙の脚のように折りたたみ、その折りたたんだ脚をあたしの胸に押し付けた。あたしの骨盤は浮き、膣がうえを向いた。次の瞬間、ペニスがまっすぐに入ってきた。
こんなとき、何も考えまいと念じても、心を無にすることはできないので、別のことを考え、心を一杯にする。あたしがこのとき思い浮かべたのは、どういうわけか、ビルの工事現場。
掘削され、
射精した男は、重そうな身体を肘で支えて、あたしの横にごろりと転がった。ふうっと息を吐いて、汗だくの胸にあたしを抱き寄せた。息ははあはあと荒い。男の肌の一部は既に冷たかった。
男は息が落ち着くと、訊いた。
「名前は」
あたしは答えたくなかった。
「名前」
男はもう一度言った。
訊きたいのだろう。無視を続ければ、男は脅してでも答えさせようとするはずだ。結局あたしは屈することになる。そういう屈辱は避けたかった。
「翔子」
正直に名乗ったりはしない。
「しょうこ。どんな字を書くの」
「羊みたいなのに、羽」
「へー、可愛い名前だね」
性欲が満たされて興奮が冷めたせいか、こちらが違和感を覚えるくらい、男の口調は穏やかだった。