第49話

文字数 708文字

気付くと部屋に武男がいて驚いた。何の気配もなく、いつのまにか入ってきていた。微妙な空気の揺れを感じ、振り返ると、目に入ったのだ。

「いっ」

声が漏れ、身体がびくっと反応した。

「何?」

あたしは訊いた。武男は何も言わない。目が据わっている。

あたしはすぐに危険を察知した。けれども、ここは家。軽々しいことはできないはずだ。

「お母さんは?」

ゆきちゃんは学校にいるだろう。しかし、母はいるはずだ。三十分ほど前にはその声を聞いた。

武男はじりじりと近付いてくる。もしかして、母はいないのだろうか。

「何なの、あんた」

あたしはゆきちゃんの真似(まね)をして、突き放したように言ってみた。けれども、効果がない。

「学校行くから」

あたしは部屋を出ようとした。

「制服着ないと駄目だろ」

武男はあたしの腕を掴んだ。あたしは着古したポロシャツに綿ズボンという格好だった。

「別に構わないから」

あたしは腕を振りほどきながら、そのまま部屋を出ようとした。すると武男は後からあたしに抱き付いてきた。(すご)い力だった。

「学校なんてどうせ行ってないだろ。いいから、ここにいろよ」

武男はあたしの胸を揉んだ。

「いやっ、放して」

武男はあたしの首に鼻を押し当てた。お尻に固いモノが当たる。

「やめて、大声出すよ」

脅しのつもりだった。母がこの現場を見れば、武男は金蔓(かねずる)を失う。

けれども、あたしは押し倒された。武男はすぐにあたしのシャツを(めく)りあげ、胸に顔を埋めた。その瞬間、あたしは吐き気を(もよお)した。苦しさと気持ち悪さから逃れたくて、叫んだ。

「お母さん、助けて」

武男はブラジャーをあげた。

「この乳」

武男は乳首を吸った。嫌悪感が全身を駆け巡る。

「やめて、助けて、お母さん」

あたしは声を張りあげた。

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