第87話

文字数 957文字

その男は頭頂部の禿()げた色白で小太りの男だった。背の高さはあたしと同じくらい。眉が細く、小さい目に、小さい鼻。唇は薄かった。漫画の善良な、しかし印象に残らない登場人物として簡単に描けそうな顔だった。

「この()ね」

ヘグ婆は言った。

男は小さな目を見開いて、あたしの全身に視線を走らせたあと、

「大きいな」

「でも本物の中学生だよ」

「うん、顔はそれっぽい」

男はネクタイを緩め、上着を脱ぎ始めた。

「じゃ、終わったら、それを押してくれるかい」

ヘグ婆はインターフォンを指した。男はあたしを見つめたまま返事をしなかった。

「鍵はかけとくかい」

ヘグ婆は閉めかけた戸をとめて、言った。

「いや、いらない」

男は脱いだ上着を部屋の隅に放り投げ、ベルトに手をかけた。

「じゃ」

ヘグ婆は襖を静かに閉めた。

男はベルトを外したあと、ボタンも外し、ジッパーを下げ、手を離した。ズボンはそのまま足首まで落ちた。男はそのズボンを足で払いのけ、それからワイシャツを脱いだ。丸い腹とは不釣り合いな細い脚だった。

男は上下ともに下着姿で、靴下を履いている格好となった。あたしも靴下を履いていないだけで、同じような姿だった。長袖のインナーシャツに太ももを(さら)していた。

「こっちにおいで」

男は言った。あたしは動かなかった。

「僕は仕事では堅物(かたぶつ)で通っていてね。……女性に対しては紳士的……」

男のペニスがトランクスを内側から押しているようだった。見るまに形が変わっていった。

「その僕が中学生を相手に何をすると思う?」

男は大股で近付いてきて、あたしの腕を取った。

「いやっ」

あたしは腰を引いて逃げようとした。しかし、男に抱き締められてしまった。

男はあたしの顔をぺろりと舐めた。あたしは顔をそむけた。同時に逃げようと腕に力を入れた。けれども、あたしの身体は凄い力で男のぶよぶよした腹に押し付けられた。冷たく質感のある脂肪の塊にあたしの胴体は沈められる。

「肌が違う」

男はあたしの頬に吸い付いた。

「やめっ」

「歳を取ると、だんだん分厚くなってくるからな」

男はあたしの顔を舐め回した。あたしは逃げようと首を振る。唾液の臭いが鼻を()く。

しばらくして、男は舐めるのをやめた。あたしはほとんど呼吸をとめていたので、息苦しい。

「生意気なおっぱいしやがって」

男は無造作に触り始めた。あたしは阻止しようとした。
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