第67話

文字数 951文字

あたしは片手を扉の新聞受けに突っ込み、もう片方の手で力一杯ノブを引いた。新聞受けのなかにはゴムバンドで鍵が吊るしてある。ユウヤは鍵を持ち歩かず、この鍵で施錠、解錠をしていた。もちろん、あたしもそうしていた。


今回、鍵は必要ではなかった。扉は勢いよく開いた。


あたしは靴も脱がずに奥へと駆け込んだ。


「何してんのっ」


あたしはユウヤの腕を掴んで引っ張った。


ユウヤは「うわあ」と声に出して驚いた。けれども、あたしだとすぐに分かったらしく、何だお前かと言わんばかりに、無言であたしの手を振りほどいた。


「やめろっ」


あたしはまたユウヤの腕を引っ張った。しかし、ユウヤはビクともしない。あたしに腕を掴まれたまま、腰を振り続けた。


「何でこんなことするのっ、離れろ、離れろ。ゆきちゃんから、あたしの妹から離れろっ」


あたしがさらに引いても、ユウヤをゆきちゃんから離すことはできなかった。


あたしはユウヤを羽交い絞めにし、力一杯後ろに引いた。それでもユウヤはゆきちゃんから離れない。


「お姉ちゃん、いやだ」


ゆきちゃんの顔は泣いてくちゃくちゃだった。


あたしはユウヤの髪を掴んだ。耳を引っ張った。背中でも、腕でも、頭でもめちゃくちゃに叩いた。そんなあたしをユウヤは片手であしらった。


「やっぱりお前の妹、可愛いじゃねえか」


「やめろ」


あたしはユウヤの首に腕を回した。


「やめろ。やめないと首を絞めてやる」


ユウヤは全く意に介さなかった。それどころか、


「乳はお前のほうがいいかも。ほら、ほら」


ユウヤはTシャツで隠れていたゆきちゃんの胸を(あらわ)にし、乳房を(もてあそ)んだ。


「いやっ」


ゆきちゃんは抵抗した。


「この野郎」


あたしは覚悟を決めて、ユウヤの首に回していた腕に力を込めた。


ユウヤが死んだらどうなるのか考えなかった。他に方法はなかった。


しかし、ユウヤはとまらなかった。あたしの力が足りないのか、それとも締め方が悪いのか、とにかくユウヤに変化はなかった。


それどころか、ユウヤは身体を前に折り曲げ、ゆきちゃんに抱き付いた。


ゆきちゃんはいやがって顔をそむける。


あたしは(なお)もゆきちゃんからユウヤを引き剥がそうとする。


ユウヤはあたしを嘲笑(あざわら)うかのように、


「いっちゃうよー、いっちゃうよー。いく、いく、あー」


こう言って、ゆきちゃんにしがみ付き、腰の動きを早く、小刻みにした。
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