第133話

文字数 617文字

あたしは堂々と灯りを点けた。ここもまた以前のままだった。(ほこり)の位置まで同じではないかと思えるくらいだった。ベッドのシーツなど、ずっと洗っていないに違いない。部屋全体に染み付いた(やに)の臭いも変わらない。

「新しい女はいない」

あたしは直観した。好都合だ。

あたしは奥に進み、部屋の隅にあった紙の束を手に取った。それはユウヤが作詞したものだ。ほとんど埋もれているような状態なので、全てでなければ、()ったところで気付くまい。

あたしは紙束を手に、キッチンと浴室を確認した。シンクは水垢で濁っていた。そのシンクには洗われずに置かれた皿やカップやスプーンが散乱していた。湯沸し器の出湯管に触れると、ぼとぼとっと水が落ち、細く流れて切れた。

「ここで顔を洗う習慣も変わらない」

浴室は天井も床もカビだらけだった。シャンプーの容器は空だった。石鹸は小さく薄くなっていた。あたしは石鹸を眺めながら、言葉を漏らした。

「これで髪も洗いかねない男だよ」

あたしは浴槽の(へり)に乗った。そして、天井にある点検口の蓋を押してみた。蓋は動いた。あたしは二、三度小さく頷いた。この作業は無意味だったが、プランBを考えるときに役立つかもしれないと思ったのだ。

次に、あたしは冷蔵庫を開けた。めんつゆ、ポン酢、ビールが二缶、それにうどんが一玉入っているだけの

としたものだった。

あたしは電気を消して部屋を出た。五分もいなかっただろう。

紙の束以外にも収獲があった。物品Xが部屋にあったのだ。

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