第66話
文字数 1,159文字
キッチンは暗かった。奥の部屋は蛍光灯が点いて明るかったけれども、人がいなかった。
「襖 の陰かな? あるいはトイレなのか」と、思うや否や、ベッドの横、畳のうえに動くものを見つけた。
鼓動が極端に高鳴った。
動いているのは、重なり合う男女だった。
あたしは慌ててしゃがんだ。見たのは一瞬だったが、光景が脳裏に焼き付いていた。
男の裸のお尻がギュッと収縮し、腰を突きあげる。腰を引くと、お尻の筋肉が緩んで丸くなる。こういう動作が連続していた。
男はもちろんユウヤだ。
あたしの心に、興味よりも恐さが影を落とした。額に汗が滲 み出た。
その光景を思い浮かべると、直感的に、同意のうえでの行為には思えなかった。
ユウヤはシャツを着たままだったし、ズボンは脱ぎかけで踵の辺りにあった。靴下も履いたままだった。女性は下着が片足にかかったままだった。手首はユウヤに押さえ付けられているようだった。それに激しく首を振っていたようにも見えた。
「あたしと同じ目に遇ってる」
頭が締め付けられるように痛んだ。吐き気もした。
少しのあいだじっとしていると、叫び声のようなものが小さく聞こえた。それはあたしの頭のなかで増幅され、悲鳴だと理解された。
あたしはどうすればいいのだろう。
何よりも、女性を助けなければならないはずだった。けれども、助けることは同時にユウヤの邪魔をすることになる。邪魔をしてユウヤの機嫌を損 ねれば、あたしはここを出ていかなければならなくなる。その心づもりはあるのか。答えは出なかった。打算があたしを躊躇させていた。
あたしはもう一度なかを覗いてみた。あたしが勘違いしているだけで、男女が互いに求め合った結果なのかもしれない。
ユウヤは女性の手首を抑えていた。女性の脚を揃 え、仰向けの彼女の腰が浮くようにその太もも裏側に自分の体重をかけていた。後ろから見て、女性の足首はユウヤの肩にかかり、ユウヤの頭の横に彼女の足の裏があった。
ユウヤはその体勢で腰を打ちつけていた。お尻はさっきのように大きくは動いていなかった。代わりに、睾丸が女性のお尻に載るようにぶつかり、離れてはぶらんと揺れるのが見えた。
あたしの足は震えるようだった。
あたしはそのまま見続けた。女性の表情を知りたかった。
女性は頭を左右に振っていた。泣いているためか、乱れた髪が顔に付いていた。
「やめてぇ」
女性はかすれた声で、絞り出すように言った。
ユウヤは腰を振り続けている。
果然 、無理やりだと思った。
「やはり助けよう」
いまさら遅いかもしれない。しかし、たとえ少しであっても彼女の苦痛を小さくできるはずだ。
あたしは女性の顔の残像を頭に浮かべて、玄関のノブに手をかけた。その瞬間、脳裏深くに生じた太い閃光 が、あたしの全身を貫いた。後頭部を強く打たれたかのように目が眩 み、鼻血が出そうな錯覚にとらわれた。
「
鼓動が極端に高鳴った。
動いているのは、重なり合う男女だった。
あたしは慌ててしゃがんだ。見たのは一瞬だったが、光景が脳裏に焼き付いていた。
男の裸のお尻がギュッと収縮し、腰を突きあげる。腰を引くと、お尻の筋肉が緩んで丸くなる。こういう動作が連続していた。
男はもちろんユウヤだ。
あたしの心に、興味よりも恐さが影を落とした。額に汗が
その光景を思い浮かべると、直感的に、同意のうえでの行為には思えなかった。
ユウヤはシャツを着たままだったし、ズボンは脱ぎかけで踵の辺りにあった。靴下も履いたままだった。女性は下着が片足にかかったままだった。手首はユウヤに押さえ付けられているようだった。それに激しく首を振っていたようにも見えた。
「あたしと同じ目に遇ってる」
頭が締め付けられるように痛んだ。吐き気もした。
少しのあいだじっとしていると、叫び声のようなものが小さく聞こえた。それはあたしの頭のなかで増幅され、悲鳴だと理解された。
あたしはどうすればいいのだろう。
何よりも、女性を助けなければならないはずだった。けれども、助けることは同時にユウヤの邪魔をすることになる。邪魔をしてユウヤの機嫌を
あたしはもう一度なかを覗いてみた。あたしが勘違いしているだけで、男女が互いに求め合った結果なのかもしれない。
ユウヤは女性の手首を抑えていた。女性の脚を
ユウヤはその体勢で腰を打ちつけていた。お尻はさっきのように大きくは動いていなかった。代わりに、睾丸が女性のお尻に載るようにぶつかり、離れてはぶらんと揺れるのが見えた。
あたしの足は震えるようだった。
あたしはそのまま見続けた。女性の表情を知りたかった。
女性は頭を左右に振っていた。泣いているためか、乱れた髪が顔に付いていた。
「やめてぇ」
女性はかすれた声で、絞り出すように言った。
ユウヤは腰を振り続けている。
「やはり助けよう」
いまさら遅いかもしれない。しかし、たとえ少しであっても彼女の苦痛を小さくできるはずだ。
あたしは女性の顔の残像を頭に浮かべて、玄関のノブに手をかけた。その瞬間、脳裏深くに生じた太い