第43話

文字数 1,043文字

「何の用か分かるか?」

美術準備室で、松島は椅子に座ったまま、訊いた。

あたしが黙っていると、松島は言葉を継ぎ足した。

「授業中、……トイレ、……島田」

あたしは、もしかして、と思った。

でも、バレるはずがない。そんなはずはない。

見ると、松島は怖そうな顔をしている。

あたしは顔が熱くなるのを感じた。唇が震え、手も(かす)かに震えていたように思う。

「思い出したか」

きっと松島も緊張していたのだろう。声がかすれていた。

あたしは下を向いて、首を振った。それしかできなかった。

「子どものくせに、何をしてるんだ」

松島は持っていた筆の軸の尻で、名札のないほうのあたしの胸を軽く突いた。

あたしは一歩さがった。松島は立ちあがった。

「え、どうなんだ」

松島はまた胸を突こうとした。

「いや」

あたしは身をひねって、後ろにさがった。

「『いや』じゃないだろ。先生は訊いてるんだよ」

「先生がこんなことしていいんですか」

あたしは声を振り絞った。声は震えていた。

「俺が何をした? お前がやったことを訊いてるんだ」

あたしは松島が近付くたびに、そのぶんだけ後退(あとずさ)った。

後ろはすぐになくなり、壁に背中が当たった。右はテーブル机。左には何もなかったけれど、松島が壁に掌を付けていた。

「何をしてたか訊いてるんだよ。言えないのか」

あたしは首を振った。

「それはどっちだ? 言えるのか、言えないのか」

涙が頬を伝った。

「どっちなんだ」

あたし泣いても、松島は追及の手を緩めなかった。

「職員室で問題にして欲しいか。それとも、みんなの前で言ってやろうか」

松島はあたしに触れんばかりに近付いた。

「……ごめんなさい。もうしません……」

「『もうしません』じゃないだろ」

松島はあたしの腕を掴んで、顔を近付けてきた。

「いやっ」

あたしは顔を背け、身をひねった。あたしのお尻がテーブル机の端に載った。

松島はどんどん顔を近づけてきた。松島の血色の悪い唇が、あたしの髪や頬に触れた。

あたしは両手で松島を押し返そうとした。しかし、押し返せなかった。

あたしの腕はつっかえ棒のようにして、松島が近付かないようにするだけだった。

松島はぐいぐい押してくるので、あたしのお尻はテーブル机のうえをズルズルと滑って、ついには着席する格好となった。

松島はあたしの手を払いのけた。そして、あたしにいっそう近付くと、あたしの胸を揉んだ

あたしは松島の手首をつかんで抵抗したけれど、やはり無駄だった。松島は揉み続けた。
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