第56話

文字数 1,293文字

洗濯もした。ベランダなどないので、干すのは窓の外。小庇(こひさし)は三十センチもないので、雨が降ればひとたまりもなかった。

この窓には手すり型の柵がついていて、その隅にてるてる坊主が吊るされていた。ティッシュペーパーで作られたそれは、汚れ、破れ、溶け、散々な有様(ありさま)だった。てるてる坊主に魂があるのか否か知らないけれど、素直に見て、このてるてる坊主は死んでいた。

「はずしていい? 首を吊ってるみたいでかわいそう」

「ああ、それか。じゃ、代わりに新しいの吊るしておいて」

「必要なの?」

「晴れないと歌えないだろ」

アーケードのなかでは歌えない決まりなのだ。

以後、あたしは幾度かてるてる坊主を作った。てるてる坊主をいつまで生かすのか、それを決めるのは、あたしだった。

あたしが家事をしていると、ユウヤは不意に後ろから抱き付いてきて、あたしの体を触った。

「ちょっと」

ユウヤは何も言わず、体を密着させる。大きく伸びたペニスが、ジャージのうえからあたしのお尻に当たる。ユウヤは腰を動かし、それを擦り付ける。手は胸へ……

あたしは作業をやめ、おとなしくしていた。

ユウヤはあたしの胸を生で揉み、乳首を立たせると、しばらくそれを楽しみ、すっと腰に手をかけ、ジャージをおろすのが常だった。

そして、黙って入れてくる。

ユウヤは無言で打ち付けながら、ときどき「くっ」や、「うっ」と苦しいような息を漏らす。

ユウヤが突くたびに、お尻に広がった膣液が音をたてた。

段々と音が速くなる。

ユウヤはあたしの腰の(くび)れをつかんで、あたしの体が動かないようにしている。それでも、しばらくすると、あたしは前後に揺すられ始める。

そうして、ユウヤが呻き声をあげるようになると、高速で動いていた腰が突然その速度を緩め、次にはっきりと口を開く。

「あっ、あーっ」

ユウヤは断末魔の叫びのような声を喉から漏らすと、ペニスを深く、大きく、ゆっくりと膣の内膜に擦り付けるのだった。

こういう一連の行為はいつも同じだった。ユウヤがアルバイトから帰ってきたときに、よく行われた。

それから食事をとると、ユウヤは歌いに出かけるのだった。あたしは同行したり、しなかったりした。それはユウヤの気分、または都合次第だった。

帰ってくると、ユウヤはまたあたしを求めることがあった。このとき、あたしはじっとしているだけではなかった。ユウヤのペニスを舐めさせられた。それから(くわ)えさせられた。

当初は、途中でペニスは口から出され、おもむろにあたしの体に埋められた。けれども、日が経つと、精液を噴射するまで続けさせられた。それで終わることもあったし、その後、体を(むさぼ)られることもあった。

ただし、どういうわけか、危険日には敏感だった。その旨を伝えると、ユウヤはあたしの口だけで済ませた。

ユウヤが大学生でないことは自然と知れた。フリーターだった。歳も二十歳ではなく、二十六歳だった。しかし、ユウヤは、

「大学? ああ、退学()めたよ、怜佳のために。誰かが働かないといけないだろ」

しれっと言っていた。

誰かが働かないといけないだろ――この言葉は、その後、何度か聞いた。
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