第3話

文字数 823文字

ユウヤは後片付けを始めた。ギターはギターケースに入れていたが、譜面台、マイク、小型のスピーカーなどはどうするのだろうと思っていると、ユウヤはそれらを大容量のボストンバッグに詰めた。丁寧に扱わず、無造作に詰めるのは意外だった。

「じゃ、行こうか」

あたしたちは並んで歩いた。ユウヤの身長は百八十センチくらいだろうか。髪は耳が隠れ、肩にかかるくらいの長さで、Tシャツにジーンズを身に着けていた。 全体に線の細い印象だった。

あたしたちはハンバーガーショップに入った。ユウヤがあたしの分も注文し、買ってくれた。

校則では、保護者の同伴なしに飲食店やゲームセンターに出入りするのは禁止されていた。ユウヤは保護者に()たらないだろう。それだけでなく、あたしは異性と一対一で食事をしたことがなかった。さらに、こういうファストフード店に入ったのも、母に連れられて一度しかなかった。それ故、あたしは緊張していた。

初めて制服を着たときのように、あたしは皆に注目されているような気がした。誰とも目を合わせたくなく、待っているあいだ、店内にある張り紙を見ていた。

『この子を探しています 黒崎かすみ 見つけたらご連絡ください』

行方不明らしい。年齢は九歳、身長は百二十八センチ、その他体重や血液型、特徴が書かれていた。

写真のなかのかすみちゃんは笑顔で、二つに分けた黒髪が肩にかかっている姿だった。あまり鮮明な写真ではなかったけれども、あたしは愛くるしい少女だと思った。

「この子はいまどこにいるのだろう」

小学生が親と離れ独りになれば、例えようもなく寂しい思いをしているに違いない。その寂しさが少しは分かる気がし、胸に棘が刺さるようだった。

ユウヤがハンバーガーとドリンクを持ってきた。あたしたちは奥の、空いたばかりの席に着いた。

店内にはたくさんの人がいた。けれども、あたしを見ている人などいなかった。

「落ち着け。誰も気にしていない」

あたしは自分に言い聞かせて、ユウヤに向き合った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み