第20話

文字数 796文字

紐の呼吸は浅く、荒くなっていた。空いた手で、あたしの尻をぎゅっとつかんでみたり、指で乳輪を辿(たど)ったりした。

ゆきちゃんを守ろうと自分から進み出たものの、やはり気味の悪さには耐えられず、すぐに(のが)れたくなった。

「もうきれい」

紐の反応はなかった。

「もうきれいよ」

「んん? そうかな」

紐は止めようとしない。ますますねっとりと、ミミズが這うように、指を動かす。

あたしは思いあぐねた挙句、こう言った。

「おしっこ出そう」

これで解放されると思った。

しかし、紐は無言だった。逆に、あたしは腕をつかまれていた。あたしは怖くなった。

「おしっこ」

あたしはもう一度言った。単にあたしの言葉が聞こえなかっただけだ。そうあって欲しいと願って。

「おしっこ? おしっこ出ないよ。さっきお風呂に入る前にしたよ」

紐はあたしの嘘を見抜いていたようで、取り合わなかった。

「どんな感じなんだ?」

あたしは、急に調子の変わった紐に当惑した。大人に言うような口調だった。

「もっと洗って欲しいのは、どうしてなんだ?」

紐はあたしに顔を近付ける。目は笑っていない。あたしはもじもじするだけだった。

紐は(こう)じた。あたしの股を(まさぐ)っている指のどれかで、何かを()き出すように肛門を触りはじめた。

あたしはすぐに逃げようとした。しかし、腕をしっかりとつかまれていて動けない。

あたしの感情は凍った。涙がぽろぽろとこぼれた。

「お姉ちゃん、痛いの?」

あたしを見たゆきちゃんが言った。

紐はそれで我に返ったようだった。

「おー、痛かったか、痛かったか。そうか、そうか」

普段の紐の言い方に戻った。

紐はあたしの身体にじゃばじゃばと湯をかけ、石鹸を洗い流した。

「きれい、きれい」

紐は笑顔を見せた。

あたしは、いつまでも困惑したような表情を見せていると、紐がまた恐い紐に戻るのではないかと思い、不本意にも笑顔を作って見せた。……
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