第6話

文字数 759文字

食べ終えて、店を出たとき、あたしはユウヤに言った。

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

ユウヤは頷き、

「よし、家まで送るよ」

「大丈夫。一人で」

「女の子を一人で帰すわけにはいかないよ」

「でも……、彼女さんに悪いし」

「ええ? かのじょおぉ?」

ユウヤは驚いた顔をした。あたしはその顔を見て、恥ずかしくなった。子どものあたしが出しゃばった真似をしてしまった。余計なお世話だろう。

「彼女なんて……」

ユウヤは言いかけて、言葉を切った。それから少し考えて、

「実はお願いがあるんだ。恥ずかしいんだけど」

「はい……?」

「さっき彼女がいた。俺たちに気付いた。何も言わずに帰ったけど」

「ええっ、どこにですか」

「この店のなかに。一人で食べてたみたいだね」

あたしは驚きを通り越し、ほとんど驚愕していた。言葉に詰まった。彼女が声もかけずに帰ったということは、かなり怒っているということなのだろう。ユウヤは彼女にあたしとの関係を問い詰められるに違いない。ユウヤが説明して、あたしが単なるファンにすぎないと信じてもらえるのだろうか。修羅場が予想された。

「何も言わずに帰ったってことは、怒ってるってことですよね。大丈夫なんですか」

こうは言ったけれども、あたしはすぐに思い直した。修羅場になるのはあたしたちの場合だ。ユウヤたちは違う。

あたしの想像では、理知的な彼女であるはずだから、仮に怒っていたとしても、最後にはユウヤの説明を受け入れるのではないか。だから「まあ、どうにかなるよ」というユウヤの答えを、あたしは予想した。そう、修羅場はないのだ。

「うーん、難しいとこなんだよね」

予想は外れそうだった。ユウヤは続けた。

「嫉妬深いからなあ……。で、お願いなんだけど」

「は、い……」

「一緒に来て、『何の関係もない。ただのファンだ』って言ってくれない?」
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