第2話

文字数 577文字

「ちょっと出かけてくれる」

あたしは母にこう言われて、夜、よく外に出ていた。本当に「ちょっと」、例えば十分くらいで帰ると、酷く怒られた。少なくとも二時間、できれば三時間は外出している必要があった。あたしは出るたびに、時間をつぶすのに苦労したけれど、ここ最近はユウヤの歌を聴いて過ごしていたのだった。

あたしには妹がいる。外に出なければいけないとき、妹と一緒に過ごすこともあったが、ユウヤの歌を共に聴いたことはない。妹はこのところ友達の家で時間をつぶしていたようだ。どういう環境か知らないけれども、そこは躾に関し寛大な親なのだろう。

こう言うと、あたしも妹も不良の走りであるかのように誤解する人がいるかもしれない。そんなことはない。あたしはともかく、妹は成績優秀だった。いま思うと、妹は友達の家で勉強をしていたのかもしれない。

実は、今日は母に「出て」と言われていなかった。都合よく外出させる母に対する反発心から、自分の意志で出ていた。

もっとも、今夜は遅く帰ったところで、母はいない。働いているからだ。

苦労して働いている母に対し、あたしの態度は不遜だと評価されるかもしれない。

確かに、母はあたしたちのためにも働いている。しかし、それは「しかたなく」であって、「ついでに」働いているとしか思えなかった。実際、「あんたたちさえいなければ」と言われたこともあるので。……
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