第92話

文字数 1,205文字

「じゃ、舐めてよ」

男は立ちあがった。丸いお腹が重そうだった。ペニスは小さくなり下を向いていた。亀頭は短く三角形に近かった。それは汚らしく見え、あたしは触りたくないと思った。けれども、自分の言ったことが嘘でないと証明するために、舐めるしかなかった。

あたしはペニスを正面にして正座し、男を見た。男はじっとあたしを見ている。子どもがご褒美を待ちわびるような顔をしていた。「もうしなくてもいいよ。その覚悟だけで充分だ」とは絶対に言わないであろう目をしていた。

あたしはペニスに目を向けた。それはさっきよりも膨らんでいた。

「先に袋から」

あたしはまだ柔らかいペニスを手に取ってうえに向け、男の股間に顔を近付けた。蒸れた枯草の臭いと生臭さとが鼻腔で混ざった。あたしは息を吸い込んで、呼吸をとめ、陰嚢(いんのう)を舐めた。苦味が走った。それでもあたしは舌先だけで続けた。

ペニスはあたしの手のなかで(たちま)ち太くなり、うえを向いた。

「うえも」

男は言った。あたしはペニスを舐めあげた。しかし、亀頭を口に収めるのは躊躇した。先端から滲み出ている汁、この男の小用の出口であることなど、端的に不潔だと思えた。奉仕させられているという屈辱感も多少はあった。

思い惑っていると、男に催促された。あたしは不快や屈辱とともに、「何でこんなことをしなければいけないのか」という怒りをも飲み込んで、鼻先にある亀頭を口に入れた。ペニスは脈打つ一本の棒になっていた。

「裏を」

「奥まで」

男は色々と指示をした。あたしは言われた通りにした。

時間が経つと、唾液が口に溜まる。あたしはいくらか飲み込み、残りを少しずつ口から出した。外に出た唾液はペニス、陰嚢を濡らし、そこから下に垂れた。

男は突然あたしの頭を両手で掴み、前後に激しく振った。自身は腰を振り始めた。

ペニスが喉を突き、あたしは()せ返った。離れようとするも、男があたしの頭を力強く挟み込んでいるので、離れられなかった。

あたしは唸って苦しさを訴えた。

しかし、男は容赦がない。その重たいはずの腰は訓練されたアスリートのように巧妙に動いた。

あたしはついに嘔吐した。食べていなかったので、胃液だけが口に広がった。酸っぱい液体を吐き出すために口を開くと、ペニスがより奥を突く。すると反射的にまた嘔吐(えず)く。

「ちょっと待って」

これすら言えない。それどころか、息ができない。胃が喉元まで跳ねあがる。身体が全力で何かを吐こうとしていた。

あたしはあまりの苦しさに、立ちあがろうとした。

「じっとして」

男は言った。静かな声だったけれども、命令口調だった。

あたしは中腰になりかけていた姿勢をゆっくりと元にもどした。苦しさで目が潤んだ。目を閉じると、目の前がチカチカとした。鼻からは液体が垂れた。何が垂れているのか分からない。あたしにできるのは、ペニスを押し返そうと舌で抵抗することだけだった。

「そう、そのまま、そのままだぞ」

そう言ったあと、男は射精した。

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