第118話

文字数 1,152文字

何か理由があって男と一緒に住んでいたのか。それとも、恋人として住んでいたのか。

「相沢に直接会って訊きたいね」

創希はそう思ったと、あたしに言った。

しかし、あたしはユウヤの部屋にいない。自宅にもいない。事情を訊こうにも、ゆきちゃんは寝込んでいて、会うことすらできない。母の返答も要領を得ない。

「何かある」

創希は思い切ってユウヤに話しかけた。ユウヤは白を切った。

「妹さんから聞いたんだけど」

創希は嘘を言った。

「だったら妹に訊けよ。何で俺のとこに来るんだよ」

ユウヤは声を荒げた。その様子を見て、創希はあたしがユウヤの部屋にいたのだと、確信することができたそうだ。そして、いま部屋にいないことも推察できた。ユウヤの発言を、いまいないからこそ「俺のところに訊きに来るのはおかしい」と解釈できたからだ。

やはり何かあるんだ、と創希は思った。

それ以降、創希はユウヤを可能な限り観察した。監視したとも言える。

そしてある日、商店街でユウヤと話す「与田」を見かけたのだった。

創希は「何かのヒントになるかもしれない」と考え、「与田」のあとをつけた。「与田」はシルバーのワンボックスに乗り込んで、街に消えた。

「大谷の言った『男二人』の内、一人はこの男かもしれない。たとえ間違っていても、可能性の一つとして追及しない手はない。ただユウヤを眺めていてもしかたないのだから」

創希は再び現れるであろう「与田」を粘り強く待ち続けた。そうして、次に「与田」を見かけたとき、創希は車で去る「与田」を自転車で追いかけた。幸いにも五十日(ごとうび)だった。幹線道路は混雑し、「与田」は渋滞に巻き込まれていた。創希は追いついては引き離され、引き離されては追いつきを繰り返した。

三十分ほど走って、「与田」は路上に車を()めた。降りた「与田」はスナックに入った。ここラビシュだった。さすがに、創希はなかに入ることはできなかった。

寒い季節、汗をかいた創希はいっそうの寒さを感じたという。しかし、それでもラビシュのある土地の妖艶(ようえん)さのほうが気になったそうだ。創希は寒さを忘れて周辺を歩いた。

色街。思慮の足りなさそうな 顔付きをしたユウヤに「与田」。行方不明の少女。

創希の頭のなかに、不穏な想像が湧き出た。

創希はあたしの母にもう一度確認した。母は「ちょっと用事があって、怜佳は親戚のところにいる」と答えたそうだ。担任の教師に尋ねると「長期の病欠」で届けが出ていると、こっそり教えてくれたらしい。両者は食い違っていた。

もちろん、病気などという個人的な事情を素直に話す義務はない。だから母親が「親戚」を持ち出したとしても、不自然とは言えない。けれども、母の口調、表情、状況の整合性を考え合わせると、何かちぐはぐだ。

徒労に終わってもいい。とにかく探してみよう。創希はそう思ったらしい。

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