第135話

文字数 830文字

「何見てるの?」

ネットカフェの窓からユウヤを見ていると、声をかけられた。ホステスさんだった。

突然だったので、頭を切り替えることができずに、黙っていると、彼女は続けた。

「いつも見てるから」

「え? ああ……」

彼女は座っているあたしに(かぶ)さるようにして、窓からユウヤのいる方角を眺めた。彼女は洗濯していないと思われるスウェットパーカーを着ていた。正直に言って、汚い格好だった。しかし、甘い香りを漂わせる。

「もしかして、あのバンドマンに気があるの」

まさか、と答えようとして、あたしは黙った。実際に見ているので、無理に否定すると不自然になりはしまいかと躊躇したのだ。

「いえ、たまに見かけるなあと思って」

「まあまあ、イケメンじゃない」

「そうですかね」

「近くで見たことあるけど、まあまあだったよ」

このときは、これで終わった。しかし、後日、あたしの方から彼女に話しかけた。彼女は派手なメイクを施し、黒のラップワンピースを(まと)っていた。

「どうも」

「あら、こんにちは」

「いま時間大丈夫ですか」

「少しならいいよ。これから仕事だから。ま、既に遅刻なんだけど」

「この前話したバンドマンのことなんですけど……」

あたしは実は憧れているんだと言った。それで告白したいのだけど、その勇気がない。だから助けてほしいとも言った。

「あー、やっぱりね。ずっと見てたもんね」

「ええ、まあ……」

「いつから好きなの」

「え? あぁ、最近……」

「最近好きになって、もう告白?」

「え? あー、あたし、行動は早いんで」

そうなんだ、と言っただけで、彼女は意味あり気にじっとあたしを見た。ネックレスの小ぶりなダイヤモンドが、彼女の胸元で鋭く輝く。

「と言うかさ、私、あなたの名前知らないんだけど」

あたしは自分の失礼を、相手はそのつもりではないにしても、責められているような気がして、慌てて言った。

「あ、あたしは翔子です」

歳は以前、確か十八だと伝えたはずだった。

「翔子ちゃん、一個下ね。私はゆうり。ゆりって呼んでくれていいわよ」


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