第4話

文字数 501文字

「もしかして、家出、なんてことはないよね?」

口のなかのバンズ(パン)を見せながら、ユウヤは言った。くちゃくちゃと音が立った。

「ううん。違うよ。家出じゃない」

「じゃあ、いまごろ、お父さん、お母さんが心配しているだろう」

「さあ」

あたしが言うと、ユウヤは一瞬、二ヤリとした。よほど注意しないと気付かない変化だったろう。

「あ、俺ね、ユウヤ。二十歳の大学生」

大学生と関わったことがなかったので、これが大学生なのかと思った。あたしの聞いた噂によれば、大学生はあまり勉強しない。この人はどうなのだろう、と考えた。

「将来はアーチストになりたいんだね。大学通ってるけど、このまんま卒業して、普通のリーマンになんかなりたくない」

「大学は、音楽の?」

あたしは言った。ユウヤは曖昧な返事をした。あたしは詮索されたくないのかなと思い、それ以上は訊かなかった。

「自分の可能性を試したいんだ」

あたしが黙っていると、ユウヤは言った。うっとりするような言葉だった。

何かに挑戦している男。

それに比べて、あたしには何もないなと思った。何のために生まれてきたのだろうと思うことも多かったので、あたしの目にユウヤは格好よく映った。
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