第57話

文字数 924文字

「お姉ちゃん、どこにいるの?」

あたしがユウヤの部屋に転がり込んだ次の日、ゆきちゃんからEメールがきていた。

「心配しないで。友達のところ」

あたしはこう答えたうえで、母の様子について訊いてみた。電話はしなかった。万が一にも、会話が母の耳に入るのを嫌ったのだ。

ゆきちゃんによると、母に変わりはないらしい。ただ、あたしについて訊くと、どことなくぎくしゃくし、目の泳ぐことがあるそうだ。

「お母さんと何かあったんでしょ」

ゆきちゃんは訊いたけれども、またそのうちに、と、あたしが答えた。ゆきちゃんはそれ以上訊いてこなかった。

あたしはゆきちゃんの身を案じた。しかし、案じる理由を説明するには、あたしは疲れすぎていた。混乱もしていた。

もちろん、それでも気にはなる。

「あいつはどうしてる?」と、武男のことも訊いてみた。

「何か険悪」

険悪? あたしとのことが原因なのだろうか。

「どういうふうに?」

「何か嘘を()いてたんじゃない? お母さん『嘘吐き』って叫んでたから」

母からお金を引っ張るために、何か作り話をしていたらしい。母が一時的に機嫌がよかったのも、そのせいだろう。もしかすると、母が予想以上に浮かれていたので、武男は図に乗って、あたしのことも半ば冗談で要求したのではないだろうか。

「ゆきちゃんも売るのか」

あたしは考えた。

母の普段の態度からすると、ゆきちゃんを粗末に扱うとは思えなかった。武男についても、以前の行動から判断すると、その辺りを察していたはずだ。ゆきちゃんではなく、あたしだからこそに違いないなかった。

「ゆきちゃんの身に危険が生じる可能性はほとんどないのでは」

改めてこう考えたあたしは、敢えてゆきちゃんに何も言わなかった。

けれども、しばらくしてふと気になった。

武男が「どうせ出て行くのなら」と、やぶれかぶれになり、力ずくでゆきちゃんに挑むのではないか。あたしは慌ててゆきちゃんにEメールを送った。

「あいつと二人にならないで」

すぐに返信がきた。

「あいついないよ。もう帰ってこないって」

母は武男と別れたらしかった。母が追い出したのか、武男が出て別の女のところに行ったのか、あるいは、それら両方が重なったのか、定かではないが、ともかくも、あたしは胸をなでおろした。
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