第十章 最後のダンス 第七話
文字数 1,460文字
「なんだと。それではお前は失格になってしまうではないか。せっかく審査はあと二回、いや最後の舞踏会では皇太子妃が決まるのだから実質あと一回なのに」
シモンは驚き、また怒って、どうにかしてメリザンドを止めようと言い出した。
「だってわたくしが元平民だというのは本当ですもの。真実を曲げるのは良くないわ」
「お前は悔しくないのか。これまでの努力が水の泡になるんだぞ。おまけに殿下とも引き離される。できるのか? 愛し合っているんだろう、耐えられるのか」
「わたくしだって嫌よ。殿下と別れたくない。でももう仕方がないのよ。真実は真実、過去は変えられない。それに無理やりお側に侍るのは殿下にご迷惑よ。殿下のためにも、辛い現実でも受け入れて、身を引くしかないわ」
「何を腑抜けたことを。これまでさんざんずるい手で潰されそうになったんだ。こっちが一つぐらい不正をして何が悪い。お人好しもいい加減にしろ。もういい。わたしがメリザンドの企みを潰してやる」
「そうですわ。都で勤め先があっても、出世するためにはやはり皇太子妃の威光がなければままならないはず。シモン様の前途を万全に整えるためには、諦めてはいけません」
ノエルもシモンに同調した。二人は額を寄せ合って、クルベットノンからエスカリエの距離から、ソンルミエール家の手の者が都へ戻ってくる日を割り出し、街道で待伏せしようと目論んだ。リゼットは何度も止めたが、二人は頑として譲らず、遂に割り出した日時に街道へと向かってしまった。
(どうしよう。ソンルミエール家の手の者って、つまり刺客みたいな人よね? お兄様が戦って勝ち目なんてないわ)
その日は木曜だった。リゼットは背に腹はかえられず、近衛隊の馬場へ行って、ルシアンに助けを求めた。
「わかった。今すぐ追いかけよう」
訓練を終えて帰り支度をしていたルシアンはユーグと腹心の近衛隊士を連れて、またリゼットと白馬に相乗りして街道へ向かった。
「こんなことで煩わせてしまって、申し訳ございません」
馬上でリゼットは詫びた。
「いや。あのあとずっと君がどうしているか考えていた。確かに身分のことはどうしようもないが、かといって黙ってメリザンドに全てを明かされる日を待っているというのは辛いだろう。まして兄君が危険を冒しているとなれば。こうして頼ってくれたの嬉しいことだ。これまで君の助言には助けられてきたから、恩返しができたようで」
馬を飛ばしてシモンたちに追いついた時には、すっかり夜になっていた。シモンはノエルと一緒にソンルミエール家の手の者数人に囲まれて、万事休していた。月明かりに手の者たちの手にあるナイフが白く光っている。
近衛隊士はその輪の中に突撃してた。ルシアンは白馬から降りてリゼットを木の陰に立たせ、自らも剣を抜いて戦いに加わった。
リゼットはハラハラしながら闘いを見守っていた。それに気が付いたのか、敵の一人がこちらに踊りかかってきた。しかしルシアンがすかさず戻ってきて、敵を切り伏せた。
「怪我はないか」
と、ルシアンが二人を気遣ったすきに、真横から別の敵が切りかかった。
「殿下、危ない!」
ユーグが咄嗟にルシアンと敵の間に割って入った。敵のナイフがユーグの腕を切り裂いた。
「ユーグ! なんて無茶を」
ルシアンは敵を撃退した後、倒れたユーグを抱きかかえた。
「いいえ。この程度大した傷では。殿下がご無事でよかった」
手の者たちは敵わないとみて逃げ去った。リゼットは危機を脱して茫然と立ち尽くしているシモンに駆け寄り、しっかりと抱きついてから、
シモンは驚き、また怒って、どうにかしてメリザンドを止めようと言い出した。
「だってわたくしが元平民だというのは本当ですもの。真実を曲げるのは良くないわ」
「お前は悔しくないのか。これまでの努力が水の泡になるんだぞ。おまけに殿下とも引き離される。できるのか? 愛し合っているんだろう、耐えられるのか」
「わたくしだって嫌よ。殿下と別れたくない。でももう仕方がないのよ。真実は真実、過去は変えられない。それに無理やりお側に侍るのは殿下にご迷惑よ。殿下のためにも、辛い現実でも受け入れて、身を引くしかないわ」
「何を腑抜けたことを。これまでさんざんずるい手で潰されそうになったんだ。こっちが一つぐらい不正をして何が悪い。お人好しもいい加減にしろ。もういい。わたしがメリザンドの企みを潰してやる」
「そうですわ。都で勤め先があっても、出世するためにはやはり皇太子妃の威光がなければままならないはず。シモン様の前途を万全に整えるためには、諦めてはいけません」
ノエルもシモンに同調した。二人は額を寄せ合って、クルベットノンからエスカリエの距離から、ソンルミエール家の手の者が都へ戻ってくる日を割り出し、街道で待伏せしようと目論んだ。リゼットは何度も止めたが、二人は頑として譲らず、遂に割り出した日時に街道へと向かってしまった。
(どうしよう。ソンルミエール家の手の者って、つまり刺客みたいな人よね? お兄様が戦って勝ち目なんてないわ)
その日は木曜だった。リゼットは背に腹はかえられず、近衛隊の馬場へ行って、ルシアンに助けを求めた。
「わかった。今すぐ追いかけよう」
訓練を終えて帰り支度をしていたルシアンはユーグと腹心の近衛隊士を連れて、またリゼットと白馬に相乗りして街道へ向かった。
「こんなことで煩わせてしまって、申し訳ございません」
馬上でリゼットは詫びた。
「いや。あのあとずっと君がどうしているか考えていた。確かに身分のことはどうしようもないが、かといって黙ってメリザンドに全てを明かされる日を待っているというのは辛いだろう。まして兄君が危険を冒しているとなれば。こうして頼ってくれたの嬉しいことだ。これまで君の助言には助けられてきたから、恩返しができたようで」
馬を飛ばしてシモンたちに追いついた時には、すっかり夜になっていた。シモンはノエルと一緒にソンルミエール家の手の者数人に囲まれて、万事休していた。月明かりに手の者たちの手にあるナイフが白く光っている。
近衛隊士はその輪の中に突撃してた。ルシアンは白馬から降りてリゼットを木の陰に立たせ、自らも剣を抜いて戦いに加わった。
リゼットはハラハラしながら闘いを見守っていた。それに気が付いたのか、敵の一人がこちらに踊りかかってきた。しかしルシアンがすかさず戻ってきて、敵を切り伏せた。
「怪我はないか」
と、ルシアンが二人を気遣ったすきに、真横から別の敵が切りかかった。
「殿下、危ない!」
ユーグが咄嗟にルシアンと敵の間に割って入った。敵のナイフがユーグの腕を切り裂いた。
「ユーグ! なんて無茶を」
ルシアンは敵を撃退した後、倒れたユーグを抱きかかえた。
「いいえ。この程度大した傷では。殿下がご無事でよかった」
手の者たちは敵わないとみて逃げ去った。リゼットは危機を脱して茫然と立ち尽くしているシモンに駆け寄り、しっかりと抱きついてから、