117. 森林の冬眠

文字数 623文字


 上司の風当たりが強い。
 ひと月かけて制作した資料は罵られ、二十(ページ)を五頁まで削られる。

 親の期待が重い。
 自分が東大卒だからと、それ以上を小学生の僕に求める。塾、水泳教室、地域ボランティアに駆けずり回る。

 家族の視線が冷たい。
 自己研鑽が足りないんじゃない? その通りです。若作りが痛々しい。若くないもの。SNSで誇れる話題ないわけ? 私は平凡です。

 おすすめは、樹木の冬眠戦略だ。
 広葉の葉緑素や窒素を幹や根に移し、不要な養分と共に広葉を落とす。

 強風にしなり、大雪をかわし、氷柱を拒否する。
 真冬を生き抜け。

【広葉を落とす】
 ひと月はサンクコスト。いまを生きよう。
 捨てるべきものは、親の自己満足? 僕の時間?
 良き父・母・子でありたいと、追い詰め過ぎた。私は私、やめよ。

【しなる】
 技術詳細は不要? この会議には、不要。おかげで知識は深まった。
 好きは大事に、残りは人生経験。適度にサボるか。
 僕に、私に、期待しているんだ。

【かわす、拒否】
 よく暴言を吐く。ストレス過剰の中間管理職。かわいそう。
 話そう。正しく話そう。投機はありがたいけれど、僕の意思も知って。
 できないものはできないし、頑張れないものは頑張れない。君がやれば?

 なぜ命懸けで働くの? 誰かの期待に応えるの? 本音に従わないの?
 休もう。

 たとえ世間と利害関係者が許さなくとも、樹木と寓話は許してくれる。
 さあ、休もう。

 冬眠する自分を受け入れて。
 樹木のように、休もう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み