110. タルト・タタン

文字数 1,173文字


 本日のデザートは、りんごのタルトです。
 害獣駆除にいらしたハンターの殿方の活力になり得るよう、甘く焼き上げていきましょう!

 ではまず、キャラメルりんごを煮詰めます。

 ・あ、あれ? 焦げ臭い? ……(1)に進む
 ・無事に成功! ……(2)に進む

(1)
 口髭の似合うダンディーな紳士様が、
「楽しみにしてますよ」
 って、鷹揚(おうよう)に頷いてくださったのに!

 紳士様の失望した顔なんて、絶対に見たくない!

 黒くなる前に、仕上げちゃえ。
 キャラメルりんごに生地を被せて、フライパンごとオーブンに投入!
 燃やす!

 ふぅ……。
 最後にひっくり返せば、見栄えはするよね? ……(5)に進む

(2)
 生地もキャラメルりんごも出来たことですし、焼いていきましょう。
 オーブンの予熱は完璧です!

 ・キャラメルりんごを載せて焼く ……(3)に進む
 ・生地を敷いてから、キャラメルりんごを載せて焼く ……(4)に進む

(3)
 テーブルに肘を立て、頭を傾ければ、うつらうつらとする。

 白馬に乗った若者が、
「あなたの為に、鹿、狩ってきます」
 別れを惜しむ愛犬さながら瞳を潤ませ、私の手を握ります。

 そんな……、私、困っちゃう……。

 がくんと頭が落ちて、ぼやけた目が開かれる。
 映るは生地。
 キャラメルりんごの甘酸っぱい煙が、キッチンに充満していた。

 し、しまった!
 てんやわんや、オーブンを開けて生地を投げ入れる。
 フリスビーのコツは、手首のスナップを利かせること!

 ふぅ……。
 最後にひっくり返せば、見栄えはするよね? ……(5)に進む

(4)
 上手に焼き上がりました!
 もし荒くれ者がこの旅籠屋(はたごや)に押し入り、金品を要求してもイチコロです。

 紅く輝く太陽に、目も舌も奪われて、
「惚れたぜ、嬢ちゃん」
 戦いに傷つき、慈悲無き世界に挑み続けた屈強な肉体が、私をそっと包みます。

 嬢ちゃんですって、ウフフフ……。

 床の木箱に(つまず)きます。
 タルトが投げ出されます。
 フローに突入、さながら往年のプロ野球選手の如く。すべてがゆっくりと進み、淡々と、落下地点にテンパンを差し出します。

 危機一髪。
 床に落ちる前に救えて……ひっくり返ってる!
 丹精込めて作ったキャラメルりんごが、テンパンの熱でじゅうじゅうと音を立ててる!

 急いでひっくり返せば、見栄えはするよね? ……(5)に進む

(5)
 普段のキャラメルりんごより、香ばしい。
 焼き色も濃く、鮮やかだ。

 りんごのタルトと呼ぶべきか微妙だけど……、紳士様も、若者も、荒くれ者も、一層喜んでくれるはず!
 私は小躍りした。

 ――本日も、タタンおばあちゃまの旅籠屋は、大盛況だったという。

【寓話だった気がするので】
 失敗は成功の素。
 禍を転じて福と為す。

 たまたまうまくいったから物語になったわけで、鉄を砕くような触感だったら、ゴミ箱に捨てられてデザート無し!
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