86. 市場の数式

文字数 684文字


 dX = hdt + f(X)dt + σ・ε[t]

 ※dX :感情の変化量
  hdt :シグナルの変化量
  f(X)dt :社会的なフィードバックの変化量
  σ・ε[t] :ノイズの変化量

 池暮らしの(かえる)たちは、王様を欲しがった。生きる責任を(いと)ったわけだ。神様に頼み込むと、神様は池に棒切れを放り込んだ。

 自分の目だけ信じる蛙は、毎日棒切れを見つめた。
「水面に浮かぶだけで、一向に動かない。(ふな)(つつ)いても反応しない。凪と停滞を愛している。悪政を敷く王よりましか」

 世間話が大好きな蛙は、噂で噂を脚色し続けた。
「お隣のオタマジャクシが食べられたらしい」
「近づいた途端、大口開けたらしい」
「夜な夜な悪魔に変身して……」

 友達の視線が忘れられない蛙は、自己主張ばかり耳にした。
「茶色は嫌い。おいしくないもの」
「いずれ葉が生えて、寝床になるさ。王様に相応しいかは知らないけど」

 王様に無関心な蛙は、日がな一日、虫を追いかけた。

 民主的な議会が開かれて、採決が取られる。
 採用二、不採用十三、棄権五で、王様は王冠を奪われた。もう一度神様に頼み込み、別の王様を貰うことになった。

 次の王は、水蛇だった。
 蛙は全滅した。

 教訓。死にたくなければ、真実だけ見て、逃げろ!

 蛇足。
 二十匹の蛙のうち、自分の目だけ信じる蛙は、危機を察知して生き延びた。
 一年後、車に()かれて死んだ。

 日々苦労して責任を背負い、一年長生きした蛙と、責任を放棄して遊び(ほう)けた果てに、水蛇に呑まれた蛙。
 どちらが幸福だろうか?

 ナンセンスに普遍性はないが、個には無価値ではない。
 押しつけられなければ、(ゆる)せる。
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