8. 確証バイアス

文字数 382文字


 敵同士が同じ船に乗り合わせた。
 一方は船頭へ、もう一方は船尾に座り、顔を見るのも嫌だった。

 激しい大波が船体を傾かせ、船頭の男は船長に尋ねる。
「船のどの部分から沈みそうか」
「荷を後ろに積んでいるからなあ。いま捨てているが、どうなることか」

「では船尾から沈むに違いない。荷捨ては間に合わず、敵と荷の重みで船は後ろからひっくり返る。敵が溺れ死ぬのを見物できるとは、悪くない最期だ」

 激しい風が帆柱(ほばしら)をしならせ、船尾の男は船長に尋ねる。
「船のどの部分から沈みそうか」
「荷を後ろに積んでいるからなあ。いま捨てているが、どうなることか」

「では船頭から沈むに違いない。荷捨ては間に合い、敵の重みで船は前からひっくり返る。敵が溺れ死ぬのを見物できるとは、悪くない最期だ」

 同じ情報でも、解釈は信じたいほうに傾く。
 自分の信じたいものだけを信じれば、認識は現実からかけ離れていく。
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