226. キガシラペンギンには不都合な真実

文字数 880文字

 キガシラペンギンは閃いた。

 象牙の塔から未来の為に絶滅種を救え、海を大事にしろと啓蒙しても、誰も行動しない。為すべきは、市井の生活、現実的基盤から、なぜ結果的に絶滅種が増えるのか、プラスチックスープが出来るのか、その本質を分析し砕くことだ。

 泣き叫んでも、何も変わらない。
 資本主義を解体したいのなら、資本主義を知れ。

 キガシラペンギンは『資本論』を執筆しようとはせず、自分の胸の内だけで、孤独に理論を組み立てていく。

 オキアミ(動物プランクトンのように小さいエビみたいな何か)を食べに、外洋に出向いた。
 逆にアシカに食べられ、天才もその理論も忘れられた。

 エンペラーペンギンは凍えてやってられないので、ハドル――おしくらまんじゅうを始める。
 百羽以上集まり、身を寄せ合った。

 寒い外側から暖かい内側へ、互いに場所を譲りながら、たくさんの同胞と顔を合わせる。
 暇つぶしに鳴き出した。

「ついにパーソナル・コンピューターが販売されたんだって!」
「え、うそぉ! 僕も自作してみたことあるけど、もうそこまで……詳しく教えて!」
「まだ数百台くらいなんだってね。いつかもっと増えれば、一家に一台……いや、一人一台の時代がくるのかも」
「テキスト編集、娯楽、教育にも使えるかな? ボタン一つでスプリンクラーが稼働したら、庭いじりが楽になりそうだよね」

 突拍子もないアイデアが溢れ、その非現実性を、誰もが楽しむ。
 アイデアがアイデアを呼び、現実に反逆する。

 九割は、きっと、形にならなかっただろう。
 それは失敗でも、無意味でもない。

 九割に育てられた一割が花開き、Appleとして世界市場を席巻した。

 進歩を引き起こしたくば、孤独な天才でなく、社交的な秀才を目指せ。
 キガシラペンギンでは足りない。

 孤独な凡才なら尚のことだ。

 本とばかり向き合うより、誰かと交流したほうが良い寓話になるか。
 バランスの問題ではあるが……。
 なるほど、まさに。

 向いてないな。

 それとも、たまたま借りた『ペンギン・ペディア』に『多様性の科学』を融合したことを、一つの進歩と誇っていいのだろうか?
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