134. いたずらっ子
文字数 453文字
アモールの悪戯に我慢の限界を迎えた人類は、総力を挙げて対策を始めた。
第一の課題「変装」
アモールは大学生にも、政治家にも、乞食にも変装できる。
迂闊に近づけば、弓矢がぴゅんだ。
政府は、人と人との距離を、三メートル以上に保てと命じた。
第二の課題「後ろ立ち」
アモールは背後を取るのが得意だ。
壁から背中を剥がすと、するりと死角に入り込み、弓矢がぴゅんだ。
政府は、鏡の携帯を義務付けた。
第三の課題「時を超える」
アモールは時間に囚われない。
思い出を反芻したり、未来を想像したりするだけで、弓矢がぴゅんだ。
政府は、いまだけを見て生きるよう、想像を禁じた。
アモールがくすくすと笑う。
「止められないよ。人が人として生きる限り、僕はいたずらっ子さ」
政府はアモールの指摘を真摯に受け止め、全人類に改造手術を施した。
さすがのアモールも、こればかりはどうしようもなかった。
政府は勝利した。
人々が歓喜の声を上げる。
その声はすべて、電子音だった。
また別種のアモールが生まれるのは、もう少し先のお話。