227. 理屈や科学より大事なこと

文字数 1,145文字

 父親が白人至上主義者の幹部、母親がKKKの元妻、家に訪れる親戚や知人はすべて白人至上主義者、小学生の頃から白人至上主義集会に通った「白人国家の若き天才」は、在り来たりで非凡な出会いを経て、「反人種差別主義者」に変わった。

「無名作家の寓話が面白いはずがない。一銭もとれないくせに」

「裏金議員が政治資金規正法を改正する? 裏道作って、半年後には同じ状況だろ? 犯罪者が犯罪を取り締まれるのかよ」

「ヒトラーは動物を愛した。ヒトラーは大量殺人鬼だ。したがって、お前、動物を愛するそこのお前は、殺人鬼なんだよ。人類の敵め!」

 人身攻撃は非論理的だ。
 意見の主張者の思想・人種・立場と、その意見の正当性は一切関係ない。

 カルト宗教家だから、彼の肯定する「相対性理論」は誤りだ。
 野蛮なバイキングだから、彼女の描く絵画は汚い。
 自社商品を売るセールスマンは欺瞞だ。

 馬鹿げている。
 しかし、効果的。
 研究では、物証と同様に、自信を揺らがせるという。

 捜査機関が証拠を捏造する、科学者がデータを改竄(かいざん)する。
 追跡調査は手間がかかる上、その追跡調査すら汚職まみれと疑えば、白も黒、黒も白と言える。

 理屈と科学には前提条件がある。

 信頼だ。

 相手が論理的に思考し、物事を平等に対処する自分と対等な「人間」と信じられなければ、対話にならない。
 悪魔と笑えますか? 野蛮人と討論しますか?
 殺すだけだ。

 人身攻撃は、その信頼を攻撃する。

 反対意見に触れても、フェイクニュースと断じて即批判する。理屈や科学を論ずる前に、盲目的に信じない。人格を貶めて非論理的に論破する。
 自分の「敵」に遭遇した人々が、多用する手法だ。

 白人国家の若き天才は、白人至上主義者と大学の友人に知れ渡った時、罵倒を浴び、車を焼かれ、抗議デモで退学を迫られた。
 まさに迫害だ!
 彼はますます自分の主義主張に固執する。

 ある友人が言った。

「夕食会に参加しないか?」

 友人は、白人至上主義者だからと彼を拒絶せず、まず信頼した。
 楽しみにしているよと、追加でメールを入れる。

 交流を重ねる内、彼は再び友人を信頼し始めた。
 そうして、はじめて、互いの政治的主張について、対話が成立する。

 在り来たりだが、実際にそう信頼できる友が、果たしてどれだけいるだろう?

 信頼。
 次に、理屈と科学。

 この順番を間違えれば、人身攻撃の応酬となり、多様性は死ぬ。
 だから、科学だけでは無力だ。
 すべての理論の根底には、信頼、ないし感情がある。

 尚、嘘つきや不当な連中相手には(勘違いでなければ)、人身攻撃は誤りとは言い切れないという。
 裏金議員とか。

 この考えの前提条件は、政治家が資本で動くべきでないという、曖昧さに基づいているが。
 なら何で動くべきなの? 愛情?
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