147. 捨てる③ キャンセル

文字数 493文字

 女性はぱっとしない彼氏と別れるか悩んでいた。
 喫茶店でレモンスカッシュの底を水浸しにしながら、ぼんやりと雲を見上げる。

 付き合う前、ライバルに別の男紹介したり、苦手だったダイエットや化粧に励んだり、頑張ったなぁ。
 別に困っているわけでもないし、万が一揉めたら面倒くさいし。
 彼氏ってだけで、他の男と違って見えるもの。

 通りすがりの行動経済学者がいうには、
「サンクコスト、現状維持バイアス、授かり効果だね! アドバイスが必要かい?」

 胡散臭かったが、妙案も浮かばず、タダなら損もないと話を聞くことにした。

「初期化するんだ。彼氏の為に支払った労力を忘れて、彼氏も彼氏でなく、ただの男友達と想像してみて。もしその状況で、君はもう一度、彼氏と付き合う為に全力を尽くすかい?」
「うーん?」

「友情を犠牲に男を当てたり、わざわざ嫌いなことを実践したりさ」
「そこまでする価値、いまは感じないな」

「もし彼氏が彼氏でなくなったら、困るかい? 苦しかったり哀しかったりするかい?」
「別に?」

 行動経済学者は快活に言い放った。

「心理的揺らぎに惑わされて、貴重な時間をどぶに捨てるかどうかは、君次第だけどね!」
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