181. 水鳥の上に立ちパフィンに見られる妖精

文字数 551文字

 暗雲が空を不穏にさせる。波が寄せては返し、寄せては返し、静けさを執拗に拒んでいた。海岸線には船のマストが立ち、強風に煽られて瀕死だ。

 水鳥が岸辺に止まっている。
 何も考えていないような顔で、細長い嘴だけが、行き先を告げていた。

「そろそろ時間だぜ」

 男らしい声で鳴く。

 背に立つ妖精――純白のワンピースに絹のショールを回し、ちいさな白き羽根を生やす――は答えた。

「わかっているわ」

 目線は片時もパフィンから離さない。

 パフィンの嘴は丸っこく太い。先端は鮮やかな橙色で、目に引いた。白黒の体はすでに陸地を向いていたが、嘴だけは、妖精に向いていた。

「……」

 妖精をじっと見つめる目には、愛嬌がある。
 何も考えていないようにも見えるけれど、きっと、何かとても大事なことを考えているに違いない。

 妖精はそれ以上何も言わず、口を閉ざしていた。
「……」

 パフィンが歩き出すことはなかった。
「……」

 水鳥は待っていた。
「……」

 岸から離れれば、きっと雨が降るだろう。
 小糠雨だ。嵐だったのなら、そのほうが喜ばしかった。

 別れの瞬間は絵画に閉じ込められ、悲劇が好転する未来は描かれない。
 好転する保証もない。

 一人と一羽の悲劇の永遠か、孤独の未来か。
 絵画か現実か。

 わたし達なら、どの選択の果てに号泣するのだろうか?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み