192. 生きたまま埋葬されたら

文字数 393文字

 死者が鐘の音を鳴らした。

 生死の判断が脈以外になかった時代、生き埋めは頻発し、万が一棺桶内で目覚めた場合、鐘を鳴らす紐が中に存在した。

 生きてる!
 掘り出さなくちゃ!

 人々は慌ててシャベルを取り出した。

 葬儀から二時間は経過している。
 酸素は残っているか。二酸化炭素は赤血球の邪魔をしていないか。

 ちゃんと遺体を棺桶に安置したか。
 230キロの土に押し潰されて、雪崩よりも迅速に、息の根が止まっていないか。

 急げ、走れ!
 けたたましく鳴る鐘の元へ!

 掘り出した。
 死んでいた。

 誰かが言った。

「防腐処理で血とホルムアルデヒドを全部取り替えたんだから、生きてるわけないじゃん!」

 一理ある。
 誰もが頷く。

 僕らは人殺しじゃなかった!
 良かった良かった。

 墓を埋め直し、一杯行くかと、人々は意気揚々と歩き出す。

 当時、墓場は無人で、動物の気配もなく、嵐も遠のいていた。

 良かった良かった!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み