256. 動物の道徳が裏切られる訳
文字数 861文字
独りの政治家が派閥を滅ぼそうとした。
60名規模の派閥はその政治家を苛め抜き、政界から追放した。
1億人規模の国民はそんな派閥に激怒し、ついに派閥は一時的に消滅した。
独りの生徒が理不尽な校則に抗った。
20名規模の教師集団は校則は絶対と生徒を苛め抜き、退学に追い込んだ。
1億人規模の国民はそんな学校に激怒し、ついに校則は改定される運びとなった。
独りのコヨーテが群れから立ち去った。
5,6匹の群れは食べ物を分け合い、協力してイヌワシと戦う。一匹狼は死に物狂いでイヌワシを排除し、その後オオカミに喰われた。
100億人規模のヒトはコヨーテもイヌワシもオオカミも絶滅させた。
動物行動の研究には、四つの領域があるという。
その一つが適応――どの行動の実践が、最終的に繁殖成功率を上げるのか?
繁殖したい。
繁殖するには、生き残らなければならない。
生き残るには、独りより二匹、二匹より三匹、100億匹で協力すべきだ。
協力相手に相応しいのは誰?
いつも約束に遅刻し、時間を奪う同僚。
まるで情動無きモノ、道具のように扱ってくる両親。
権力者にこびへつらい、部下に責任を押しつける上司。
思いやりを持って接してこない相手と、協力したい?
道徳とは、「向社会的」な行動を指す。
社会的に振る舞えれば、詰まるところ協力すれば、生き残る確率が上がる。
繁殖できる。
だから道徳は裏切られる。
その相手と協力しなくとも生き残る確率が十分高ければ、道徳的に振る舞う理由はない。
道徳は前提ではない。
本質ではない。
ピラミッドに喩えるなら、礎ではなく、中間に過ぎない。
最優先事項にはなり得ない。
いくら道徳的に振る舞えと国が社会が心が騒いでも、生存本能には勝てない。
拷問して殺すか、殺されるか、どちらを選ぶ?
経済的に殺し合う世界で、道徳は無力だ。
破産するくらいなら拷問する。
思い描くべきは、動物が尊重される道徳的な世界ではなく、誰も死なない世界だ。
誰も傷つかない世界だ。
殺さなければ笑えないの?
幸せに、なれないの。