229. みんな違ってみんな良いと、現実に実践できますか?

文字数 814文字

 ライオンと虎と猫とコロコロの指のサイズを平均し、ピアノを作った。
 誰の指にも合わなかった。

 兎とヒトと海豚(いるか)啄木鳥(きつつき)を同じ教室に押し込み、同じ授業を施した。
 ヒト以外、逃げ出した。

 象とチーターと計算生物学者とチワワに脂肪をたっぷりと食べさせ、マラソンをさせた。
 象とチワワは途中で倒れた。
 チーターと計算生物学者はエネルギッシュに完走した。

 ヒトの教育と海豚の教育の最適解は違う。
 50年前の教育といまの教育の最適解は違う。
 日本人の教育とフィンランド人の教育の最適解は違う。

 10キロ余裕に走れる人の体育と、そうでない人の体育の最適解は違う。
 微積分が得意な生徒の数学と、一次方程式が苦手な生徒の数学の最適解は違う。
 あなたの教育と私の教育の最適解は違う。

 白いパンで血糖値が上がるヒトもいれば、安定するヒトもいる。
 腸内40兆個の細菌がまったく同じヒトは存在しない。
 実験群の多様性で食事療法の結果は異なる。

 標準化された腸はない。
 普通のヒトはいない。

 けして平等になり得ない人々を平等に扱うのは、悲劇だ。

 みんな違ってみんな良い。

 自分好みの絵画、観葉植物、愛人の写真が業務効率を上げる。
 便のサンプルと血液検査のデータを送れば、その人個人に適した食品がわかる。
 生徒一人ひとりの長所、学習深度に応じて、課題や最終的な目標を臨機応変に変える。

 多様な人々を型に押し込んで、クローンを量産する価値があるの?

 服の標準サイズは悪くない。
 個々人に気を配るには、時間がかかりすぎる。
 型からはみ出た人間を落伍者とし、自分は普通で正しいと優越感に浸れる。

 標無き道は怖い。
 標準と示された道を進めば、安心できる。
 みんな一緒にみんな悪く、全員地獄に突き進め。

 犬には犬の――チワワにはチワワの、ポメラニアンにはポメラニアンの、ゴールデン・レトリーバーにはゴールデン・レトリーバーの――モカにはモカの、レオにはレオの魅力がある。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み