228. 星々の功罪

文字数 1,291文字

 テラフォーミングの為、惑星チョココロネにメロンパン隊員が降り立った。

「いらっしゃい! はるばるようこそ!」

 隊員は現星人から熱烈に歓迎される。
 お近づきの印には、もちろん、チョココロネが振る舞われた。

 友好の品に隊員が提供したのは、メロンパンだ。
 現星人が首を傾げる。

「チョコが詰まっていない?」
「形状も変だね。どうして捻じれていないの?」
「パンと名のつくものは、すべからく、貝殻状でなければ法律違反でしょ?」

 惑星はチョココロネに支配されていた。
 メロンパンも、クロワッサンも、バゲットも、シナモンロールも、ホットドッグも存在しない。

 メロンパン隊員が演説する。

「コロネの可能性を狭めないでください! 多様性こそ、進歩の必需品です! チョココロネもおいしいですけど、新たな可能性を開きたいと思いませんか? ウインナーを融合すれば、ウインナーロールができるのです!」

 現星人は人身攻撃した。

「侵略者だ……」
「至高の捻じれを滅ぼし、(たい)らの惑星を築く気だ……」
「可能性を餌に油断させ、こっちが信頼したら裏切るんでしょ……」

 信頼が足りない。
 隊員らは安易なテラフォーミングを諦め、現地に溶け込むことにする。

 朝、チョココロネ。甘い。
 昼、チョココロネ。ビターな味わい。
 夜、チョココロネ。ダブルホイップが色鮮やかだ。

 宇宙は捻じれから始まった。体を捻じると健康的だ。チョコレート運河の沐浴(もくよく)ほど精神を高める術はない。チョコレートを肌に塗るとつやつやする。平らなパンは力がない、捻じれたパンはいまにも飛び上がらんばかりだ。

 他星のチョココロネは甘すぎる、もったいない。
 チョコ、コロネ、それぞれの甘さに等級が十あり、その組み合わせだけでも百通りのチョココロネを作れる。苺チョコ、抹茶チョコ、バニラチョコ、詰め物の可能性を含めれば、チョココロネで語れない味覚は存在しない。

 カカオポリフェノールが脳を活性化させる。
 著名な医者が、食事療法の筆頭にチョココロネを挙げた。
 目もあやな捻じれが人々の心を震わせ、明日を生きる活力となる。

 至高の死とは、チョココロネを過食し、チョココロネに変化することだ。
 過去の偉人たちは、そうして大地の栄養となった。

 一年後……。
 メロンパン隊員は、チョココロネになるべく、三食おやつ夜食きっかりチョココロネを食べ続けていた。

「僕も先人と同じ、栄誉の道を進むんだ!」

 他の隊員はテラフォーミングを諦め、母星に帰還する。
 あいつは死んだ。
 そう報告したという。

 エコーチェンバー現象は、反響する会議室というより、星々の功罪と勧めてみたい。

 星みたいに、同じ偏見の人々が集積する。
 星みたいに、重力に絡めとられ、あるいは同じ空気を吸っては吐き、偏見を強める。
 星みたいに、誰でも訪れ、反対できる。それを侵略者、陰謀論、フェイクニュースと、論理的に議論せず撥ね退ける。

 人々はそれぞれの星に分断され、星間戦争に突き進んだ。
 勝者はいない。

 天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突は45億年後と聞くが、私達が不当なエコーチェンバーから抜け出すには、あと何年かかるのだろう?
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