172. オタヴィア・アンティクア

文字数 405文字

 不出来な花林糖(かりんとう)は海を泳いでいた。
 無数の孔からプランクトンを吸い取り、また別の孔から排水した。

 つまり、彼女・彼は、最古の動物化石だった。

 一年、ぐだぐだ過ごした。
 百年、吸って吐いて、それだけだった。

 一万年、右に左に揺蕩(たゆた)い、波間を見上げた。
 一千万年、いい加減飽きてきたかも、それも一興かなとぼやいた。

 一億年、おいらも存外上等だよねと、自画自賛した。

 月兎が地球見酒を楽しむ。
「白いねぇ、白いなぁ。こんなに真っ白だと、僕の毛皮が見劣りしちゃう!」

 赤道直下まで氷で覆われた全球凍結(スノー・ボール・アース)の時代、不出来な花林糖は海面下でふらつく。
「ちょっと冷えるね。化石燃料、燃やさなきゃ!」

 二億年間、進化も進歩もなく、不出来な花林糖はぼんやりと生きてきた。
 無い鼻で笑う。

「いまがこんなに幸せなのに、どうして変わろうとするわけ?」

 絶滅の瞬間、彼・彼女がどんな風に笑ったか、あとは想像に任せるとしよう。
 でも、海綿っしょ?
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